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The possible world  作者: テスター
12/17

11話


「やっと着いた…ここがリスライズだな」


 俺が今居るのは、グランポートシティ西商業地区の一角、リスライズという名前の店の前だ。

 西側の商業地区に来たのは初めてだけど、東側と同じく多種多様な店がたくさんあり、大通りを歩いているだけで楽しむ事ができる。

 ただ、人通りも東側と変わらないため非常に多く、気をつけないとぶつかってしまいそうだ。


「しかしラッキーだったなぁ、都合良くクエストがあるとは」


 あの後、毛皮を売りに行こうとした俺をライオットが呼び止めた。

 正確にはその気配を察したモモが俺を呼び止めたんだが。

 ともかく、俺を呼び止めたライオットは俺に1つのクエストを見せてきたわけだ。

 その内容は、カーネイア・ハウンドの毛皮を1つ40gで買い取るので取ってきて欲しいというものだった。何とNPC売りの倍である。素晴らしい。

 そんなクエストがあるならもっと狩っておくべきだったと後悔したが、狩りに行く前にクエストを確認しなかった俺が悪い。それでも、少しは得するという事もあって俺はクエストをその場で受け、依頼主の待つ店までやって来たのだ。


「しかし、本当にここで合ってるよな?」


 ざっと周囲を見渡すが、ここは大通りから少し外れているせいかあまり人影は多くない。

 店の名前は合ってると思うんだけど…ちょっと不安だな。

 通行の邪魔にならないよう脇により、Dデバイスを開いてクエストの内容を確認する。


<クエスト>

<毛皮、高値で買わせていただきます>

<依頼主:リス>

<急遽カーネイア・ハウンドの毛皮が必要になりましたので、高額で買い取りたいと思います。毛皮1つ当


たり40g、上質な毛皮なら1つ当たり100g、美しい毛皮なら200gで買わせていただきます。数に


制限はありませんが、期限は本日中でお願いします。受け取りはグランポート西商業地区12番通りにある


リスライズという店でお願いします>


 うん、やっぱりここで間違いは無さそうだ。12番通りにリスライズという店はここしかない。

 それにしてもありがたいのは、クエスト文が日本語ってところだな。これで原文ままらしいので、きっと依頼主のリスって人は日本人なのだろう。

 となれば、依頼品の引き渡しもスムーズにいけそうでありがたい。


「とりあえずここでこうしててもしかたないし、入ってみるとするか」


 荷物を担ぎ直し、店の中へと入っていく。

 店の中は静かだった。

 といっても静謐の雫亭のような静かさとは違う。

 店内には落ち着いた曲が流れ、数は少ないが客がゆったりと店内の品を見て回っている。

 というか曲って流せるんだな。どうやってるんだろう?

 そんな疑問をいだきながら、俺は店内を見回す。

 そこに陳列されている物、それは服だった。

 主に女性用の物みたいだが、中には男性物も混じっている。


「これは…凄いな」


 そこに並んでいるのは、今俺が着ているような中世風の服だ。それは間違いない。

 そのはずなのに、何故かオシャレだと、そう感じる服達だった。

 これなら現実世界で着ても、ちょっと珍しい服で済んでしまうような気がする。

 ま、俺がそう思うだけで実際着たら変人扱いだろうけど。

 店内の服に興味を引かれつつ、先に持ってきた物を売ってしまおうと店員を探すが見あたらない。

 普通洋服店ってのはうっとうしいぐらい話しかけてくる店員がいるものだと思っていたんだが、この店はどうも違うらしい。

 とりあえず店員を呼ぼうと声を出そうとした時、店の奥から妖精人の女性が出てきた。おそらく店員だろう。


「すいません、お店の人でしょうか?」

「ええ、私は店長のリスですが、何かご用でしょうか?」

「クエストを受けてカーネイア・ハウンドの毛皮を売りに来ました」

「あぁ、依頼を受けてくれた方ですか!えっと、それでは毛皮持ってきていただけましたか?」

「はい。初心者なもので少ないですが…」


 背負い袋をおろし、中から毛皮を4つ取り出し机の上に置いた。

 彼女は1つ1つ手に取り、丹念に品の質を確かめていく。

 4つ目の毛皮は特に念入りに調べ、しばらくして毛皮を置きこちらを見た。


「確かにカーネイア・ハウンドの毛皮ですね。普通の毛皮が3つに上質な毛皮が1つですから、合わせて220gお渡しします」

「ありがとうございます!」

「いえいえ、それはこちらの台詞ですよ。本当に急に必要になって、でも取りに行く暇もなくて困ってたんです。おまけに数も必要な物で…今日中でしたらまだ買い取り受け付けてますので、もしまた手に入れたら持ってきてくれるとありがたいです」

「はい、ちょっとどうなるか分かりませんが、可能なら持ってきますね」


 無事、代金を受け取る。

 初めての狩りにしては儲かった方なのだろうか。基準が分からないのでなんとも言えない。

 とはいえ、NPCの倍で売っているのだから美味いに違いないだろう。

 リスは今日中ならまだ受け付けると言っていたし、今はまだ昼の1時程だ。今から狩りに行くのもいいだろう。

 おっと、だがその前に、


「あの、今日までってのはゲームの時間でですか?」

「あ、そうです。こちらの時間で本日中です」

「分かりました」


 それでは、と店を出ようと勢いよく振り返った時、そこにいた誰かと思いきり正面衝突してしまった。


「あいたたたた…」

「Ow, that hurt! Watch where you are going!」


 そこにはどこかで見たような男がいた。

 ていうかマジかよ。もう2度と会う事は無いって思ってたのに。


「ってお前かよ。また俺の邪魔する気かJapanese!」

「別にそんなつもりありませんって。今のも偶然ぶつかっただけで…」

「はっ、どうだかな。さっきの事で腹立ててHarassmentしに来たんじゃないのか?」

「何で俺がそんな事しなきゃいけないんですか」

「さぁな。あいにくFoolの考える事は俺には分からなくてね」


 男は敵意むき出しの目でこっちを見下ろしてくる。

 …今回も確かに悪いのは俺だ。しかし、しかしだ。ここまで言われるような事したか?


「いくらなんでも被害妄想が過ぎるってもんだろ。いい年した男がみっともないと自分で言ってて思わないか?」

「何だと!?」


 瞬時に胸元を掴まれ、軽く持ち上げられる。

 だが、俺もちょっとばかしキレてしまったらしく、瞬時に男の顔をにらみ返す。


「俺も確かに悪かったけどな。だが人間常識ってもんがあるだろうが!お前にはそれが無いのかって言ってんだよ!」

「OK,よっぽど殴られたいらしいなJapanese!」


 男がこちらを殴ろうと拳を振りかざすが、こちらもむざむざと殴られてやる程お人好しじゃない。

 身体を思いきり揺らし、相手の手を掴んで身体を離させようともがくと同時に左手で腰の木刀を掴み、抜き去って柄の先を相手の拳に合わせるように突き出す。

 男はこちらの動きを見て、拳に柄を当てないようこちらを掴む手を放し、身体を大きく横に倒す。

 柄の先は空を突き、避けた相手は片足を軸に身体を回しこけずにこちらから距離を取った。そして、


「きゃっ!」


 男は距離を取った先にいた女性に見事に当たった。

 その拍子に彼女が持っていた荷物が床にばらける。


「あ」

「what?」


 そして、男は見事に床に散らばったものの1つを思いっきり踏みつけた。


「あーーーーーー!!何してくれてんだお前!!」

「Ouch!」


 女性の連れらしい女の子が見事な回し蹴りを放ち、男を吹き飛ばす。

 そしてすぐに男が踏みつけた箇所を見やるが、そこには踏みつけられぐしゃぐしゃになった草が乱雑に散らばっていた。


「おいお前!これどうしてくれんだ!苦労して取ってきたってのに!!」


 少女は倒れてる男に詰め寄り、胸元を掴んでがくがくと揺する。


「Wait!いきなりでなにがなんだか…」

「だから!お前があたしたちが苦労して取ってきた青空草を踏んづけて台無しにしやがったんだよ!どう落とし前つけてくれるんだ!?」


 あまりに激しい剣幕に、俺はぽかんと見ている事しかできなかった。

 男は状況を理解したらしく、さっきまでとはうって変わって神妙な顔つきになっていき、


「I'm sorry.それは、非常に申し訳ない事をしてしまった」


 そういって頭を下げる。

 少女もそれを見て少し溜飲を下げたのか、掴んでいた手を放す。


「まぁまぁ、セラちゃん。その辺で良いんじゃないかしら。私は気にしてないし…」

「マリーが気にしなくてもあたしが気にするんだよ!わざわざ2時間かけて取ってきたんじゃないか!」

「もしかしてあなた達、その足下にあるのは…」

「あ、はい、ご依頼の青空草です。この通り渡す品はこんなになっちゃいましたけど…」


 一瞬の出来事で唖然としていたらしいリスさんが、2人の話を聞いて話に入っていく。

 どうやらこの2人はリスさんの別の依頼を受けた人達らしい。そして、渡すはずだった品を俺と男の乱闘のせいで台無しにしてしまった…と。


「すいません!俺たちが暴れたばかりに…」

「ほんとだよ!こんなとこで何考えてるわけ?」


 全くその通りである。さっきまではどうかしていた。

 重ねて謝ろうとする前に男が声を上げる。


「本当に済まなかった。お詫びにもならないだろうが、その品俺が責任を持って用意させてもらう」

「はっ!そんな事言って、とんずらしようったってそうはいかないぞ!」

「ちょっとセラちゃん!良いんですよ、草はもう一度取ってくれば良いんですから…まぁ今日はちょっとこ


れから予定があるので無理ですけど、明日にでも取りに行きますわ」

「えっと、それだと困るのだけれど」


 にっこりと男に笑いかけるマリーと呼ばれた女性に対して、リスさんが焦ったように声をかける。


「あなた達が受けた依頼、期日は今日までになっていた筈よね?それとも日本時間の朝9時までに持ってきてくれるのかしら。それなら文句は無いのだけれど」

「えっと…ちょっと困った事になっちゃったかしら」

「マリーの馬鹿!忘れてたわけ?リスさん、言っときますけど今回あたし達は悪くないですからね。文句ならそこの男どもに言ってくださいよ!」


 セラと呼ばれた少女がこちらを思いっきり睨みつけてくる。

 そして、またも俺が何か言う前に男がしゃべる。


「分かってる。だから俺が責任持って取ってくる。Blue sky grass なら前にも取ってきた事があるから何とかなるはずだ」

「だから、そういって逃げるつもりだろう!?」

「No.そんな事はしない。信用出来ないなら、ほら」


 男は白い牙のような形のDデバイスを起動し、冒険者カードを彼女たちに見せた。


「俺のExplorer Number を控えてもらって良いぜ。もし今日中にここに戻ってこなかったら運営に通報してもらって結構だ」


 セラは戸惑ったらしく、リスの顔を伺った。


「私としては、青空草が手に入るならどちらでも良いですよ」

「…ふんっ、良いよ、控えさせてもらう。帰ってこなかったら分かってるな?」

「Of course. それじゃ早速向かわせてもらうぜ」


 男はそういうと、さっさと店から出て行こうとする。

 っておい、展開早すぎるだろ。


「ちょっと待てよ。お前1人で行くのか?俺だって…」

「騒動の原因はともかく、今回Blue sky grass を台無しにしたのは俺だ。だから俺が責任を取る。それに…」


 男はこちらを見て、鼻で笑いながら言った。


「お前に付いてこられても邪魔なだけだ。さっさと宿に帰りな、Beginner」


 男は言う事だけ言って店から出て行った。

 俺は何も言い返す事ができなかった。


「あーあ、最後にケチ付いちゃった。そんじゃマリー、帰ろっか」

「そうね。リスさん、騒がせてすいませんでした」

「ああ、良いんですよ。最初に騒いだのはあなた達じゃ無いんですし」


 そういって彼女たちは帰っていこうとする。

 これでいいのか?

 俺は何もしなくていいのか?

 ラッキーだったな。あの男はさんざん俺にいちゃもんつけてきてたし、今回の件だってあいつが暴力に出たのが悪いんだろ。俺は悪くない。悪いのはあいつだ。それで良いじゃないか。


「良いわけ、無いだろ」


 いきなり声を出した俺を奇妙に思ったのか、彼女たちがこちらを見る。


「あの、青空草が取れる場所、教えてくれませんか?」

「何、あんた取りに行く気なの?」

「…はい」

「なんで?あの男が取りにいってくれてるんだから、それでいいじゃん。あんた達がどんな関係か知らないけど、仲良い感じじゃ無いんでしょ?だったらあいつに押しつけときゃ良いじゃない、責任」


 セラが訝しげな様子で聞いてくる。

 そうとも、それでいい。俺にあいつを手伝う義理はないし、あいつも望んでない。むしろ嫌がるだろう。

 だけど、


「スッキリ、しないんですよ」

「はぁ?」

「このままほっといたら、スッキリしない気分でしばらく過ごす事になりそうなんで。そういうのって嫌じゃないですか」


 何言ってんだこいつ、とセラが俺をマジマジと見つめてくる。

 そんな俺に何を思ったかは分からないが、リスが教えてくれる。


「西門から西カーネイア草原を真っ直ぐ西に進んだところに小さな泉があります。そこに青空草は生えていますよ。そこに駄目になった実物がありますから、持っていくと良いでしょう」

「ありがとうございます!」


 潰れてしまった青空草を1束拾い、背負い袋に入れる。


「あ、俺の冒険者番号も控えといて貰えますか?」


 あわてて冒険者カードを見せると、リスは苦笑しながら番号を控えてくれた。


「あの、泉はここから1時間程歩いたところにあります。行くならしっかり準備していった方が良いと思いますよ」

「わざわざありがとうございます。本当にすいませんでした」

「ま、せいぜい頑張るんだね。取って来れなかった時は迷惑料込みでたんまり請求させてもらうからそのつもりでな」

「もう、セラちゃんったら。それじゃあ頑張ってくださいね」


 彼女たちはそういって店を出て行った。

 それを見送った後、リスの方へと向き直り頭を下げる。


「本当にご迷惑をおかけしました。必ず青空草を取ってきます」

「まぁ初心者には結構大変だと思いますから、危ないと思ったら引きかえしてくださいね。怒ってないといったら嘘になりますが、そこまで責任を感じてもらうような事でもないんですよ。彼女たちだって、片方は怒ってたかもしれませんけど、もう片方は気にしてない様子だったでしょう?その程度の、大したことない依頼だったんですから」

「でも、今日中に必要なんですよね?青空草」

「…それは確かにそうです。でも、そこまで重要なものってわけではないですよ?」

「それでも、必要だから依頼を出した。そして俺はそれを駄目にしてしまったんですから、知らんぷりはできませんよ」

「…分かりました。ではしっかり責任をとって頂きます。青空草を1束、確実に届けてください。今日中に届けられなかった場合は違約金をしっかり頂きます。お金が無い場合はその防具を売ってでも金にしてもらいますから、絶対に途中で死んだりしないようにしてくださいよ?」

「はい!絶対に届けます!」


 彼女にそう告げ、俺も店を後にした。

 

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