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ゲームのラグで死んだ俺は最強スキル<<遅延>>を使って無双する

作者: 土田土
掲載日:2026/08/09

新堂ユウは、二十二歳のニートだった。

学生時代のいじめで心を折られ、

学校にも社会にも戻れず、

気づけば昼夜逆転してゲームばかりしている生活。


「はぁ……またラグってるし」


敵の攻撃がワープしてきて、

避けたはずなのに突然当たり、

理不尽に倒される。


ユウはコントローラーを握りしめた。


「いやいやいや……なんで今の当たるんだよ……」


ため息をついて、

もう一度ログインして、

またラグって、

また倒されて、

またため息。


そんな毎日だった。


そしてある日、

ひどいラグに巻き込まれた瞬間、

ユウはついモニターを叩いた。


「ふざけんなって……!」


その瞬間、胸がズキッと痛んで、

視界がふっと暗くなった。


---


気づけば、草の匂いがした。

空はやたら青くて、風が気持ちいい。


「……え、外……?いや、どこ?」


立ち上がると、頭の中に声が響いた。


――転生を確認。

――固有スキル《遅延》を付与します。


「……遅延?ラグじゃん」


ユウは思わず座り込んだ。

転生したのはいいとして、

よりによってラグがスキルってどういうことだ。


そんなことを考えていると、

森の奥から魔物がぬっと出てきた。


「うわ、来た……」


牙を剥いて突っ込んでくる。

ユウは反射的に身をすくめた。


その瞬間、魔物の動きが“ふにゃっ”と遅くなる。

突進は途中で止まり、

牙は空中で固まり、

まるで動画が止まったみたいに。


「……え、これ俺のスキル?」


ユウがそっと横に避けると、

魔物はそのまま地面に転がった。


なんか……勝てた。


「ラグ……便利じゃん……?」


ユウは草の上に座り込んで、

しばらく空を見上げた。


「……まぁ、こっちの世界なら、なんとかなるかもな」


ゆるい風が吹いて、

ユウの髪を揺らした。


---


森を抜けると、小さな村があった。

木の柵と、煙の上がる家が数軒。

人の気配がして、ユウは少し安心した。


村に入ると、子どもが走ってきた。


「お兄さん、魔物に追われてたの?」


「いや、なんか……止まったから倒した」


「止まったの!?」


子どもは目を丸くして、村の大人を呼びに行った。

すぐに何人かが集まってきて、ユウを囲む。


「魔物を倒したって本当か?」

「怪我はしてないのか?」

「どうやって倒したんだ?」


ユウは肩をすくめた。


「……なんか、動きが遅くなって。

そのまま石投げたら倒れました」


村人たちは顔を見合わせた。

どうやらこの辺りでは、魔物はかなり危険らしい。


「助かったよ。最近魔物が増えてて困ってたんだ」


「お兄さん、すごいね!」


ユウは照れくさくて、視線をそらした。


「いや、俺そんな……すごくないし」


でも、誰かに“ありがとう”と言われるのは久しぶりだった。

胸の奥が少しだけ温かくなる。


その日の夜、村の人たちが簡単な食事を用意してくれた。

パンとスープだけの質素なものだったけど、

ユウは妙に落ち着いた気持ちで食べた。


「……なんか、こういうの悪くないな」


ゲームの画面越しじゃなく、

誰かと同じ場所で食べるご飯は、思ったよりずっと美味しかった。


---


翌朝。

村の入口に、見慣れない装備の人たちが立っていた。


剣士、魔法使い、僧侶──

そして中央には、金色の紋章をつけた青年。


「君が、新堂ユウだね?」


ユウは驚いて立ち止まった。


「え、なんで俺の名前……」


「噂を聞いた。

“魔物の突進を止めて倒した男がいる”ってね」


青年は微笑んだ。

その背後の仲間たちも、興味深そうにユウを見ている。


「僕たちは勇者パーティーだ。

魔王討伐の旅をしている。

……君の力を、仲間として借りたい」


ユウは言葉を失った。

自分みたいな落ちこぼれニートが、

誰かに“必要だ”と言われるなんて思ってもいなかった。


胸の奥がじんわり熱くなる。


「……俺でよければ」


青年は嬉しそうに頷いた。


「ありがとう。

君の“遅延”は、この世界で一番頼りになる」


ユウは照れくさくて、空を見上げた。


「……まぁ、悪くないかもな」


---


こうしてユウは旅に出た。

魔物の突進は止まり、

魔法は途中で固まり、

致命傷はすべて“遅延”して無効化される。


落ちこぼれニートだったユウは、

この世界でだけ、誰よりも強く“守れる”存在になった。


ラグで死んだ男は、

ラグで世界を救う旅へと歩き出した。

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