ゲームのラグで死んだ俺は最強スキル<<遅延>>を使って無双する
新堂ユウは、二十二歳のニートだった。
学生時代のいじめで心を折られ、
学校にも社会にも戻れず、
気づけば昼夜逆転してゲームばかりしている生活。
「はぁ……またラグってるし」
敵の攻撃がワープしてきて、
避けたはずなのに突然当たり、
理不尽に倒される。
ユウはコントローラーを握りしめた。
「いやいやいや……なんで今の当たるんだよ……」
ため息をついて、
もう一度ログインして、
またラグって、
また倒されて、
またため息。
そんな毎日だった。
そしてある日、
ひどいラグに巻き込まれた瞬間、
ユウはついモニターを叩いた。
「ふざけんなって……!」
その瞬間、胸がズキッと痛んで、
視界がふっと暗くなった。
---
気づけば、草の匂いがした。
空はやたら青くて、風が気持ちいい。
「……え、外……?いや、どこ?」
立ち上がると、頭の中に声が響いた。
――転生を確認。
――固有スキル《遅延》を付与します。
「……遅延?ラグじゃん」
ユウは思わず座り込んだ。
転生したのはいいとして、
よりによってラグがスキルってどういうことだ。
そんなことを考えていると、
森の奥から魔物がぬっと出てきた。
「うわ、来た……」
牙を剥いて突っ込んでくる。
ユウは反射的に身をすくめた。
その瞬間、魔物の動きが“ふにゃっ”と遅くなる。
突進は途中で止まり、
牙は空中で固まり、
まるで動画が止まったみたいに。
「……え、これ俺のスキル?」
ユウがそっと横に避けると、
魔物はそのまま地面に転がった。
なんか……勝てた。
「ラグ……便利じゃん……?」
ユウは草の上に座り込んで、
しばらく空を見上げた。
「……まぁ、こっちの世界なら、なんとかなるかもな」
ゆるい風が吹いて、
ユウの髪を揺らした。
---
森を抜けると、小さな村があった。
木の柵と、煙の上がる家が数軒。
人の気配がして、ユウは少し安心した。
村に入ると、子どもが走ってきた。
「お兄さん、魔物に追われてたの?」
「いや、なんか……止まったから倒した」
「止まったの!?」
子どもは目を丸くして、村の大人を呼びに行った。
すぐに何人かが集まってきて、ユウを囲む。
「魔物を倒したって本当か?」
「怪我はしてないのか?」
「どうやって倒したんだ?」
ユウは肩をすくめた。
「……なんか、動きが遅くなって。
そのまま石投げたら倒れました」
村人たちは顔を見合わせた。
どうやらこの辺りでは、魔物はかなり危険らしい。
「助かったよ。最近魔物が増えてて困ってたんだ」
「お兄さん、すごいね!」
ユウは照れくさくて、視線をそらした。
「いや、俺そんな……すごくないし」
でも、誰かに“ありがとう”と言われるのは久しぶりだった。
胸の奥が少しだけ温かくなる。
その日の夜、村の人たちが簡単な食事を用意してくれた。
パンとスープだけの質素なものだったけど、
ユウは妙に落ち着いた気持ちで食べた。
「……なんか、こういうの悪くないな」
ゲームの画面越しじゃなく、
誰かと同じ場所で食べるご飯は、思ったよりずっと美味しかった。
---
翌朝。
村の入口に、見慣れない装備の人たちが立っていた。
剣士、魔法使い、僧侶──
そして中央には、金色の紋章をつけた青年。
「君が、新堂ユウだね?」
ユウは驚いて立ち止まった。
「え、なんで俺の名前……」
「噂を聞いた。
“魔物の突進を止めて倒した男がいる”ってね」
青年は微笑んだ。
その背後の仲間たちも、興味深そうにユウを見ている。
「僕たちは勇者パーティーだ。
魔王討伐の旅をしている。
……君の力を、仲間として借りたい」
ユウは言葉を失った。
自分みたいな落ちこぼれニートが、
誰かに“必要だ”と言われるなんて思ってもいなかった。
胸の奥がじんわり熱くなる。
「……俺でよければ」
青年は嬉しそうに頷いた。
「ありがとう。
君の“遅延”は、この世界で一番頼りになる」
ユウは照れくさくて、空を見上げた。
「……まぁ、悪くないかもな」
---
こうしてユウは旅に出た。
魔物の突進は止まり、
魔法は途中で固まり、
致命傷はすべて“遅延”して無効化される。
落ちこぼれニートだったユウは、
この世界でだけ、誰よりも強く“守れる”存在になった。
ラグで死んだ男は、
ラグで世界を救う旅へと歩き出した。




