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見てしまった


高校に入学し、新しい春が始まった頃。夜の路地裏、人通りの少ない静かな場所で、松雪蒼は腰を抜かし座り込んでいた。


近くの店で買い物をし帰宅途中だった松雪は、路地裏から漂う変な空気を感じとった。普通なら無視するであろうところだが、好奇心旺盛な高校一年生の松雪は、そんな路地裏に興味を抑えきれず、恐る恐る路地裏を覗いた。路地裏なんて覗いてもろくな事がなさそうだったが、そういうことをあまり考えない行動であったと言える。


そこにいたのは三人程の人影とその人影に追い詰められたような人間には見えない何かの形の影。その奥の影が人には思えず何なのか確かめるべく目を凝らすと、ちょうど月明かりに照らされその姿を現した。そして松雪は路地裏を覗いたことをすぐに後悔した。


「っ」


松雪は目を見開き、路地裏の信じられない光景に声が出ない悲鳴がでる。その姿を現した影はやはり人間ではなかった。人型であるが四足で眼がなく、口は大きく裂けていて、普通の人間の二倍はある体格はまさに化け物そのものであった。


あまりの恐怖に足が震え、体が固まる、逃げたいのに逃げれない状況に松雪は涙が出そうであった。


化け物の目の前にいる人間達は大丈夫なのか、食われてしまうのではないか、ふとそう思った松雪は人影に目線を移した。人影は路地裏の陰と被っている帽子で顔が見えないが、怯えている様子はなく、先程も述べたように化け物を追い詰めているかのような様子に松雪は違和感を覚えた。


そのとき月明かりで照らされた薄暗い闇の中、ひとつの人影が両手を開いた。両手を昇姿はしなやかで美しくただ手を開いただけなのに品を感じた。瞬間、暗闇を照らすようなそれはそれは美しい光の矢が現れる。あまりの美しさに松雪の口から無意識に感嘆の声が漏れる。


弓は化け物に狙いを定められ、晃雅が見惚れている間に放たれた。


「あっ、」


気がついた時には矢は化け物に命中し、汚い悲鳴をあげ、刺さった光の矢を中心に崩れ始めた。


そんなおぞましく、それでいて美しい光景に松雪は見入ってしまった。まるで天使が悪魔に天罰を下しているような、神聖な光景。綺麗としかいいようがなかった。


完全に化け物が消えた頃、数人の人影がコソコソと話だし、弓を放った人物へ耳打ちをした。


遠いため何を言ってるか分からないが、逃げた方がいい気がした。逃げるが勝ちと、動かなかった足を無理矢理動かそうとする。


「ねぇ」


しかし逃げる前に声がかかる。動くなと直接言われたわけでもないのに松雪の足は地面に縫い付けられたように動かなくなった。その間にも、コツコツと松雪へ足音は近づく。恐怖、というよりかは緊張が松雪に走る。


耳が痛いほどの静寂の中、人影が近づいてくる。灯りに照らされ徐々に顔が浮かび上がる。


驚く程整った甘い顔立ち、綺麗なミルクティー色の少し長めの髪に空を映したかのような碧眼。近づいてきたのは、松雪と年が近そうな綺麗な少年であった。


「君、見ちゃったよね?」


何がとまでは少年がいうことはなかったが、なんの話かは理解するのは容易であった。嘘をつくべきなのだろう、だが松雪はゆっくり認めるように首を縦に動かしてしまった。


「だよねぇ」


少年はため息交じりにそういうと、手のひらを松雪に向ける。手の平からは、眩しく綺麗な光が現れ、現れ・・・?


「STOP!流石にダメっしょ!」


光が放たれる寸前、横からまた同年くらいの少年が止めに入った。何をしようとしていたのか松雪には想像もできなかったが、今の少年の止め方と先ほどの光景からよい結果になっていたとは思えず、少年から解き放たれた松雪はその想像から腰を抜かしてしまった。


「……冗談だよ~。そんな怖い顔しないで?」


光を消した少年は、明るい口調で人影たちに笑いかける。今の今、松雪に攻撃をしようとした人間には見えない。周りの人影たちは分かりやすくため息をつく、少年の行動に呆れているようだった。


「俺でもダメって分かるわ!」


「ごめんごめん。」


ぷりぷりと怒る子に対して、少年はさほど悪いと思っていない様子で謝る。


「……ねえ、君?」


少年はふわりとその男子に近づく。少年からはなんだかいい匂いがした気がした。落ち着きまじまじと少年を正面から見たことで、松雪はあることに気が付いた。少年も同時に気が付いたようで、驚いたように眼を見開く。


「まつ……はらくん?」


「松雪です!!」


少年に名を呼ばれた松雪はすぐに名を訂正する。やはり間違いではなかった、この少年を松雪は見たことがあった。それも最近入学したばかりの学校で、しかも同じクラスで、整った風貌は話してことがなくとも印象が強く頭に残っていた。少年の名はたしか


「白くんだよね・・・?」


白と呼ばれた少年は肯定するようににこりと微笑んだ。白鳴季(つくもなるき)松雪と同じ学校に通う高校一年生だ。


「えっと、松雪くん?ごめんね、ちょっとついてきてくれないかな」


優しい口調だが、胡散臭い言葉に松雪はすぐさま首を振る。


「いやいやいや、絶対怪しいでしょ!?なんなの!!なんなんだったのその光!?」


あまりにも怪しい白についていくと、先ほどのような危ない目に合いかねない。魔法のような光についても説明してもらっていないのだ、ついていくのは死に行くようなものでしかない。


「大丈夫、大丈夫。ね、怖くしないし、ちゃんと説明もするから」


白は優しい顔で宥めるが、その優しさが余計怖さを増す。プルプル震える松雪は子犬のようだ。白は震える松雪に困ったような表情を向ける。いつまでもそう怯えられていると話が進まない。静かに着いてきてくれる様子もない。仕方がないと白はため息をつき静かに合図を出す、松雪が疑問を抱くと同時に松雪の後頭部に鈍痛が走った。意識が遠くなると同時に、にこやかに手を振る白が見えた。


_______________________


ずきずきと痛む頭を感じながら、ゆっくりと眼を開ける。目を開けて見えた景色は、先ほどと全く違う。先程まで外にいたはずなのだが、見える景色は赤い壁でありどう考えても室内であり、松雪は椅子に縛られていた。


「どうなって・・・」


「あれ、気が付いた。」


困惑しながら声をだすと、目を覚ましたことに気が付いた声が松雪に近づいてくる。


「白くん」


「おはよう、松雪くん。びっくりしたよね、ごめんね」


その声は不思議と安心感があり、松雪は怯えながらも頷いた。


「ここはどこ?」


「そんな事お前には関係ないし」


怯えながら松雪が質問すると、白の横にいる少年がばさりと質問を切った。金髪、桃色の瞳の先ほどとは違う少年、表情は大変不機嫌そうで早く終わらせたいと言っているようなものだった。しかし松雪としても、はいそうですか。と素直に受け入れる訳にもいかない。なんていたって自分の身が掛かっているのだ。


「気になるよ。俺、巻き込まれた側なんだから」


怯えながら歯向かう松雪に、白は意外そうな少年はとてつもなく面倒くさそうな表情をする。


「はああ?」


しかし怖いものは怖い、凄く嫌そうに松雪を睨みつける少年に松雪は顔を怯えさせた。そんな最悪な雰囲気の二人を落ち着かせるように、白が間に入る。


「話してあげようよ。起きちゃったんだし、どうせ記憶消すんだしさ」


「だからこそ要らない作業だし」


「いいじゃん、僕がちゃんと責任持つから。ね?」


白の気まぐれは止められず、強く止めることもできず。仕方がないと少年はため息をつくと沈黙した。白はそんな少年に感謝を込めた眼を向け、松雪の方に向き直る。


「それじゃあ松雪くん、状況説明して欲しいならしてあげるよ。」


白はニッコリ微笑み。丁寧に、けれど飾らずに説明を始める。


「僕たちは、《朧ノ巣》っていう組織に所属していてね。特殊能力を持った人たちが集まってるんだ」


「朧ノ巣…」


特殊能力、組織、初めて聞く言葉。想像以上の言葉に松雪は言葉を繰り返し、驚愕する。


「そう。君がさっき見たのは、僕の“光”の力。それで暴れてた“ジャンク”って呼ばれる敵を倒してたんだ」


ジャンク、また松雪が初めて聞く言葉。松雪が見た化け物を指す言葉である。


「……ヒーロー、みたいなもの?」


「そんなカッコいいものじゃないけどね。」


目尻を下げ苦笑する白の言葉に、松雪は目を輝かせた。


「俺も、そういうの手伝いたい!」


漢なら一度は憧れる“特殊能力”や“組織”。やりたくないという漢がいるだろうか、いやいない。憧れるに決まっている。


「いや、流石にね。」


目を輝かせる松雪に白は少し困ったように笑った、次の瞬間、部屋の扉が開いた。


「面白いことになってるな」

「あれ?なんで彰くんが」


扉から入ってきた彰と呼ばれた少年は、不敵にほほ笑みながら堂々と入室してくる。彰を見た白は明らか動揺しており、少年も眼を開き驚いている。


「さっきそこで、バカと会ってな。」


バカという人物が誰を指すのか分からなかったものの、全く、と手で頭を抑える白を見て困った奴なことが松雪には容易に想像できた。


「それでそいつ。組織に入りたいのか?」


「っはい!」


いきなり現れた圧強めの彰に対し、少し怯みながらも力強く返事を返す。本当は怖く、消されてしまうのではないかという恐怖が大きかったが、ここで怯むわけにもいかなかった。彰は面白そうにまじまじと松雪を眺めた後、周りにいる二人に眼を向けた。


「入れてみるか、試しにそいつ」


彰の一声で事態は大きく動く。思ってもいなかったまさかの一声に松雪を覗いた、二名がひどく困惑する。


「え、本当に言ってる?」


「えぇー、それは良くないし、それに僕こいつ嫌いだし。」


「まあ、ペット感覚でいいんじゃないか?ダメなら捨てろ」


物騒な言葉が飛び交う中、松雪はよく分からないながらも大きく目を輝かせた。裏の組織、ヒーローのような組織の仲間になれる、その事実だけで松雪は胸が高鳴った。そのため話をよく聞いていない。


「それに、最近ペット人間読んで欲しくなってな」


面白そうに言う彰に白と少年は思わずドン引きする。彰が何も悪気なく天然でそう考えているからまた恐ろしい。ドン引きしている二人を見ながら彰は言葉を続ける。


「それにこのままじゃ、この組織は何も成長しない。変化点は必要だろう。」


圧を出しながら言う彰に反抗できる相手など組織には居ない。それは二人も動揺、納得がいかないながらも黙る二人を満足そうに彰は笑う。


「飼い主は任せたぞ、つー。」


彰に”つー”と呼ばれた白はうんざりとした顔をする。白の落ち度な故、ある程度想定していたが厄介な話でしかない。


「うちにはもう、一匹いるんだけど」


白は、やんちゃでキャンキャン騒ぐ小型犬を思い出した。しかし白の反対意見など彰は聞かない。


「つーの責任だろ、しっかり最後まで面倒を見ろ」


それはそうなのだが、入れると言い出したのは彰くんなのに、とまだ渋る白だが、他の人間が松雪を指導する様子を想像し、まぁいいか、と息を吐いた。他の人間が面倒をみたとき、荒れるであろしそれを収めるのも白だ。それなら最初から自分で見ておいた方がいいと判断したのだ。


そしてそのままいまだ興奮する松雪に近づくと、松雪を縛っている縄を隠し刀で斬った。それは無駄のない洗練された動きであった。


縄を切られ自由になった松雪は腕を下ろし、椅子に座ったまま不安そうにそれでいて、未来を思い浮かべどこか楽しげな瞳で白をじっと見つめた。


そんな松雪を見て白はふわっと笑って手を差し出す。


「それじゃあ、ようこそ《ハマルティア》へ。111人目のメンバー、松雪くん」


「はいっ!」


慌てて立ち上がりぺこりと頭を下げる松雪。その姿に、白はぽつりと呟いた。


「……なんだか、面白くなりそうだね」


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