006
噂は、一族の中だけに留まらなかった。
ケニアの直接の要請により、ホムラケ一族は彼のために二人の師を招いた。
一人は魔術を教える者。
もう一人は武術を教える者。
どちらも生半可な存在ではない。
彼らはかつて日本の頂点に立っていた者たち――その名を聞くだけで、誰もが畏敬の念を抱くほどの存在だった。
そんな二人がケニアを教えることを承諾したという事実に、一族の中では思わず唾を飲む者も少なくなかった。
二週間。
たったの二週間の鍛錬。
天地を揺るがすような奇跡は起きない。
覚醒して爆発的な力を得ることもない。
ただ毎日、淡々と続く修練。
流れる汗、悲鳴を上げる筋肉、何度も倒れては立ち上がる日々。
ケニアは弱音を吐かなかった。
ただ、学び続けた。
そして今日は特別な日だった。
ホムラケ一族・始祖の命日。
朝早くから、一族の人間がかつてないほど集結していた。
各地に散らばっていた分家の者たちも次々と帰還し、広大な屋敷は無数の強者の気配で満ちていく。
ケニアは広い中庭の中央に立っていた。
周囲を見渡すだけで、圧倒的な重圧を感じる。
ただ立っているだけなのに、頭上に刃を突きつけられているような者。
朗らかに笑っているのに、その瞳の奥が深すぎて覗き込めない者。
そして――彼は見つけた。
日本トップ10。
たった一人いるだけで、周囲の空気が数段重くなる。
離れていても、他者が無意識に距離を取ってしまう存在。
ケニアは静かに息を吸った。
もし自分が天才だとしても――?
そう自問する。
この一族では……天才など珍しくもない。
その時、ケニアは初めて理解した。
なぜホムラケが幾世代にも渡り、揺るがずに在り続けられるのか。
なぜ個人の力だけでは足りないのか。
そして、彼の視線は一人の男に止まった。
父だ。
彼は中心に立ち、一人一人を落ち着いた態度で迎えている。
力を誇示することもなく、威圧することもない――それでも、自然とすべての視線が彼に集まっていた。
ケニアは、ふと尊敬の念を覚えた。
これほどの強者たちを束ねる存在。
それだけで、凡人であるはずがない。
儀式は決して重苦しいものではなかった。
むしろ、大きな祭りのようだった。
惜しみなく使われる資金。
名だたる芸能人、最高峰の料理人、音楽と光――すべてが完璧に整えられている。
一族の者だけではない。
ホムラケの庇護のもとに生きる一般市民も参加していた。
あちこちで響く笑い声。
走り回る子どもたち。
杯を掲げ、語り合う大人たち。
ケニアは片隅に立ち、それらを眺めていた。
胸の奥が――不思議と温かい。
豪華さのせいではない。
権力のせいでもない。
ただ一つ、はっきりと感じたことがあった。
この一族は……本当に、人々を守っている。
ケニアは拳を軽く握る。
「……」
転生してから、初めて――
彼は強くなりたいと思った。
証明のためでもなく、復讐のためでもない。
この場所に立つに相応しい存在になるために。




