019
ケニヤはベッドから跳ね起きた。
心臓が、いつもより速く脈打っている。
――「ライガ」
――「テレビで言ってたこと……本当なのか?」
ライガは椅子にもたれ、ビール缶を片手に持ったまま、ちらりと視線を向けて鼻で笑った。
――「ああ」
――「日本が、ちょっと騒がしくなってるだけだ」
――「仮面をつけた連中が」
――「少し力を手に入れたからって、救世主気取りか」
ビールを一口飲み、皮肉たっぷりに続ける。
――「大家系の支配を終わらせるだと?」
――「笑えないほど幼稚だ」
ケニヤは眉をひそめた。
ライガの声は、次第に深みを帯びていく。
――「もし家系を倒すのがそんなに簡単なら――」
――「千年以上も生き残ってるわけがない」
――「あいつらはな……」
――「表面しか見ていない」
――「なぜ政府も、軍も、ハンター協会も――」
――「すべてが家系に依存しているのか、理解していない」
ケニヤは黙り込んだ。
……何かがおかしい。
そう感じずにはいられなかった。
海の向こう、日本では、事態が急速に動き出していた。
政府は即座に非常事態宣言を発令。
国営放送は、繰り返し警告を流す。
――「全市民に、国家防衛への協力を要請します」
――「仮面をつけたテロリスト集団を指名手配します」
――「全ハンター協会に、討伐協力を要請」
その名は、至る所に広がった。
《天罰》。
都市には懸賞金のポスターが貼られる。
だが――
それで終わりではなかった。
翌日。
再び、凶報が届く。
民間人を護衛中だった上位ヒーローが殺害。
昼間の市街地で、ハンターチームが待ち伏せを受け壊滅。
小規模な協会拠点が、一瞬で消し飛ばされた。
今回は、映像が隠されなかった。
人々は、はっきりと目にした。
ヒーローが倒れる姿。
家系の到着は遅れ。
政府は……声明を出すだけ。
怒りが、静かに積み上がっていく。
――「政府は何をしてる?」
――「家系は自分たちの利益しか守らない!」
――「ヒーローが死んで……一般人はどうなる?」
SNSは炎上した。
最初は囁きだった声が――
やがて叫びに変わる。
――「俺たちは駒だ!」
――「家系は労力を搾取している!」
――「ヒーローは金持ちしか守らない!」
そして――
《天罰》は、再び姿を現した。
基地を襲わない。
ヒーローも殺さない。
今度は、民衆に向けて語った。
――「我々は民を殺さない」
――「腐ったシステムを守る者だけを殺す」
――「抑圧されている者」
――「見捨てられた者」
――「我々の側に来い」
怒りの火種は、正確に投げ込まれた。
一人、また一人。
一つの街、また一つ。
彼らを匿う者が現れ、
情報を流す者が増え、
仲間になる者が出始める。
政府が弾圧すればするほど――
独裁と呼ばれ。
家系が沈黙すればするほど――
吸血鬼と罵られた。
ケニヤは窓辺に立ち、
静かなアメリカの空を見つめていた。
――「ライガ……」
――「このまま続いたら、どうなる?」
ライガは小さく笑った。
だが、そこに冗談の色はなかった。
――「そうなれば、日本は――」
――「血と雷の時代に入る」
ケニヤは拳を強く握る。
胸の奥で、ぼんやりと理解し始めていた。
これはもう、ヒーローと悪の物語じゃない。
システムと、それを壊そうとする者たちの戦争だ。
そして――
「魔法を持たない」ケニヤは、
その嵐の中心に立っている。




