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マーカスは訓練室の中央に立ち、腕を組んだ。

ゲームをしていた時のふざけた雰囲気は微塵もなく、そこにあるのは**本物の戦場を生き抜いてきた者の厳しさ**だった。


――「よく聞け、ケニヤ」


――「重力で最も重要なのは……力じゃない」


ケニヤは顔を上げ、真剣に耳を傾ける。


マーカスは指を一本立て、言葉を一つ一つ噛みしめるように言った。


――「周囲の空間を“感じる”ことだ」


ケニヤはわずかに眉をひそめる。


マーカスは続けた。


――「重力は、どこにでも存在している」

――「だが人間は、その中で生きることに慣れすぎて、認識すらしていない」


彼はケニヤの周りを数歩、ゆっくりと歩く。


――「空間を“空っぽ”だと思うな」

――「見えないが、重さを持つ物体だと想像しろ」


――「重力を学ぶ者は、重さを生み出すわけじゃない」

――「空間が本来持つ重さを、増やせと命じるだけだ」


壁にもたれていたライガが、低い声で付け加える。


――「だからこそ言われる」

――「二万人に一人いるかどうかだ」


ケニヤは息を呑んだ。


二万人に一人……?


マーカスは頷く。


――「そうだ」

――「大半は、最初の段階で脱落する」


――「空間を感じ取れないからだ」


彼はケニヤを真っ直ぐ見据える。


――「だが、ホムラケ家は違う」

――「お前たちの素質は……常人より遥かに高い」


――「だから――」


マーカスは手で合図した。


――「諦めるな」


訓練が始まった。


ケニヤは部屋の中央に立ち、目を閉じる。


空間……

空気……


周囲を感じ取ろうとする。


だが、何もない。


いつもと同じ、ただの空気。


――「魔法を使うな」

――「魔力も使うな」


マーカスが注意する。


――「ただ、感じろ」


ケニヤは深く息を吸った。


自分は空間の中に立っている……

それが、全身を包んでいる……


空間を、分厚い水の層のように想像し、

それを“押し潰す”イメージをする。


反応はない。


――「失敗だ」


マーカスは容赦なく言う。


二回目。

三回目。

十回目。


何も起きない。


汗が、ケニヤの背中を伝い始めた。


――「時間をかけて重さを増やせ」

――「無理に押すな」


――「重力は、強制されるのを嫌う」


だが、意識すればするほど、頭は混乱していく。


空間はどこだ?

自分は、何を感じている?


一時間が過ぎ、

二時間。


ケニヤの呼吸は荒くなる。


――「また失敗だ」


マーカスは首を振った。


――「お前は“意志”を使っている」

――「感覚じゃない」


ライガは離れた場所から見ているだけで、何も言わなかった。


一日目は、沈黙のまま終わった。


二日目。


ケニヤは再び挑む。


今度は、力を抜き、自分を縛らないようにした。


それでも空間は……沈黙したまま。


――「失敗だ」


三日目。


――「失敗」


五日目。


――「まだだ」


身体は疲れ切り、

精神も揺らぎ始める。


本当に、自分には才能がないのか?


名門の血なんて……

二万人に一人だなんて……


ケニヤは床に座り込み、膝に手をついて荒く息を吐いた。


――「俺は……」

――「本当に、習得できるのか?」


その声には、はっきりとした挫折が滲んでいた。


マーカスはしばらく彼を見つめ、やがて口を開く。


――「重力は、すぐに身につく技術じゃない」


――「失敗を受け入れた時に、初めて開く力だ」


ライガがついに口を出す。

低く、鋭い声で。


――「ここで諦めるなら――」

――「自分をホムラケの人間だと名乗るな」


ケニヤは拳を強く握った。


爪が、皮膚に深く食い込む。


違う。


まだ、終わりじゃない。


習得できていなくても……

何度失敗しても……


心の奥底で、ケニヤは分かっていた――

**最初の“感覚”に触れる瞬間は……もう、すぐそこまで来ている。**


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