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013



ケニヤと戦った男が、ふっと目を細めた。

その瞬間、彼の視線から迷いは完全に消えた。


――「このジジイ……俺を舐めてやがるな?」


前触れもなく、男は全体重を乗せ、腰をひねりながら一直線の拳を放った。狙いは正確にライガの顔。

空気が裂け、拳風が鋭く唸る――明らかに、幾度ものストリートファイトで磨き上げられた一撃だった。


ケニヤは目を見開く。

間に合わない――!


だが――


ライガは、ただ軽く首を振っただけだった。


身体をわずかに傾ける。

その動きは、あまりにもゆっくりで……まるで気だるそうにすら見えた。


拳は紙一重で彼の顔をかすめ、白髪を数本揺らしただけで空を切る。


次の瞬間――


ライガは、たった一歩前に出た。


――「愚か者が」


バンッ――!!!


ライガの拳が、男の顔面に叩き込まれた。

派手さも、複雑な技術もない。

ただの一発――だが、そこには圧倒的な重みがあった。


衝突音が、密閉された空間で雷鳴のように響く。


背後の壁が爆散し、コンクリートは砕け、鉄筋は歪んだ。

男の身体は吹き飛ばされ、ボロ切れ人形のように壁に叩きつけられ、そのまま床に落ちる。


気絶――

いや、ほとんど死にかけていた。


部屋は、完全な静寂に包まれた。


誰も口を開かない。

誰も大きく息をしない。


ケニヤには、自分の心臓の音だけがはっきりと聞こえていた。


一秒。

二秒。


そして――


――「殺せぇぇぇ!!!」


怒号が響いた。


恐怖に煽られた残りの連中が、一斉に突っ込んでくる。

瓶、鉄パイプ、ナイフ――照明の下で鈍く光る。


ケニヤは拳を握りしめた。

多すぎる……。


だが、その瞬間――


――気配が爆発した。


ライガの身体から、目に見えない圧力が津波のように放たれる。


空気が凍りつき、

床が激しく揺れ、

周囲の壁が蜘蛛の巣状にひび割れた。


窓ガラスが砕け散り、破片が四方に飛び散る。


ケニヤは膝が震え、肺を握り潰されるような感覚に襲われた。

これは普通の殺気じゃない――

無数の命を踏み越えてきた者だけが放つ、純粋な圧力。


弱い者はその場で泡を吹いて失神し、

まだ意識のある者も、全身を震わせ、指一本動かせずに固まった。


もはや、誰も攻撃しようなどと思わない。


彼らの頭に浮かぶ言葉は、ただ一つ。


――怪物。


ライガはそこに立ち、両手をポケットに入れたまま、恐ろしいほど平然とした目で言う。


――「まだやる奴はいるか?」


返事はなかった。


やがて、店主が青ざめた顔で飛び出してくる。

汗だくで、声は震えていた。


――「あ、兄貴……こんなに店を壊されちゃ、俺はどうやって生きていけば……」


ライガは周囲を見渡す。

倒れた机と椅子、崩れた壁、床一面のガラス片。


少し考えた後、頷いた。


――「ああ。俺のミスだな」


彼はスマホを取り出す。


――「口座番号を言え」


店主が反応する間もなく、

二十万ドルが即座に振り込まれた。


通知音が鳴る。


店主は目を見開いたまま固まり、すぐに何度も頭を下げた。


――「あ、ありがとうございます! 何も……本当に何もなかったことにします!」


ライガは手をひらりと振り、そのまま背を向けて歩き出す。


後ろでケニヤは、喉をからからにし、乱れた心拍を抑えられずに立ち尽くしていた。


その瞬間、彼は理解した。


この男は――

ただの強者じゃない。


暴力が支配するこの世界の、さらに上に立つ存在だ。


そして今日から――

ケニヤの進む道は……


もう、後戻りできない場所へと踏み込んでしまったのだ。


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