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赤い光を放つ巨人の瞳が、まるで地獄の業火のように輝いた。
その瞬間、圧倒的な殺気が大広間全体を覆い尽くし、クロウの身体は勝手に震え出す。
呼吸は荒く、心臓は破裂しそうなほど激しく鼓動を打ち続けていた。
――視線を向けられただけで、これか……。まるで化け物だ……!
ドンッ!!!
石像の怪物が大剣を握り締め、次の瞬間には常識外れの速度で突進してきた。
「――はやっ!!」
至近にいた冒険者の一団は、何が起きたのか理解する間もなかった。
振り下ろされた巨剣が稲妻のように閃き、空気を切り裂く。
ザシュッ!!!
絶叫とともに鮮血が飛び散る。三人の体は一瞬で真っ二つに切り裂かれ、そのまま壁に叩きつけられて磔にされてしまった。赤黒い血が冷たい石壁を汚し、滴り落ちていく。
「嘘だろ……っ!!!」
悲鳴が響き渡り、恐怖が場を支配する。
巨人は動きを止めることなく、さらに剣を振り上げた。
ドガァン!!
三人の防御系魔導士が同時に巨大な魔法障壁を展開し、青白い光が眩く広がる。
だが、それも一撃で粉砕された。
障壁は紙のように裂け、三人の身体は地面に叩き潰され、原型を留めない肉塊へと変わっていく。
「な、なんて力だ……っ」
空気は血の臭いで満ち、誰もが足をすくませた。
「散るな! こちらへ集まれ!!!」
轟くような声が恐怖を切り裂いた。
燃えるような赤髪を持つ青年――その名はジョン。Sランクハンターの男だ。
鋭い瞳と圧倒的な気迫が人々を奮い立たせる。
「俺はジョンだ! 生き残りたければ俺の所へ来い!!」
冒険者たちは蜘蛛の子を散らすように、だが必死にジョンの元へと駆け寄る。
だが巨人は執拗に追いすがり、重い足音と共に一歩ごとに大地を揺らす。
そのたびに巨剣が薙ぎ払われ、血と絶叫が撒き散らされた。
「ここで止めるっ!!!」
ジョンが地を蹴り、一瞬で巨人の眼前に迫る。
灼熱の炎を纏った拳が一直線に突き出され、轟音と共に巨体の胸を撃ち抜いた。
ドゴォォォン!!!
巨人の身体が大きく揺れ、後方へ吹き飛ぶ。
「今だ!!」
ジョンの仲間二人が即座に飛び出し、眩い魔力弾を両脚へと撃ち込む。
轟音が響き、巨人はバランスを崩して地に膝をついた。
さらに「チーム・ファルコン」の冒険者たちが詠唱を開始。
巨岩が次々と落下し、巨人の腕や胴体を押さえ込む。
「――これが好機だ! 全力をぶつけろ!!!」
ジョンの咆哮に応じ、冒険者たちは次々と最強の魔法を解き放つ。
炎、雷、氷、無数の光線が降り注ぎ、流星群のごとく巨体を覆い尽くす。
轟音と閃光が交錯し、大広間は戦場そのものと化した。
煙と塵が立ち込め、誰もが肩で息をしながら見守る。
「勝った……のか?」
安堵の声が漏れた、その瞬間――
ズバァァァッ!!!
黒煙を切り裂いて飛び出したのは、巨人の放った巨大な大剣だった。
旋風のごとき勢いで空を裂き、一直線にジョンへと迫る。
「くっ……!」
ジョンは歯を食いしばり、全力のエネルギー弾を叩きつけた。
ドゴォォォン!!!
衝撃が広間を揺るがす。
だが――剣は砕けない。エネルギーを貫き、そのままジョンへ。
「嘘だろ……っ!!!」
刹那、ジョンとその背後にいた冒険者たちの瞳に、死の光景が映り込んだ。
――ドガァァァァァン!!!
爆発と共に、広場全体が鮮血と肉片に包まれる。
石畳は崩れ、壁は血に染まり、人々は無残に吹き飛ばされた。
ただひとり。
赤い瞳を輝かせる巨人だけが、屍山血河の中に堂々と立ち続けていた。
まるで言い放つように――
「誰一人、生きては帰さぬ」




