089
レンツは両手をポケットに突っ込み、大きく笑いながら余裕たっぷりに闘技場を後にした。
まるで、先ほどの勝利など取るに足らないことだと言わんばかりに。
観客席に座っていたクロは、眉をひそめ心の中でつぶやく。
「……もう三回戦だぞ。第一回戦じゃないんだ。なのに、あいつはまるで散歩でもしてきたかのように平然としている。」
――
その日、クロはハンター協会へと足を運んでいた。
このハデシュの街には数多くのハンターグループが存在する。その中でも特に名の知れたのはイーグル。大規模なチームではあるが、まだ国家ハンターグループには届かない。
国家に認定されれば、多くの特権を得ることができる。高ランク任務への優先参加権、自由な行動の保障、そして国家の庇護。
だが、クロにとってそれはまだ遠い未来の話だった。
クロはイーグルに応募すると同時に、十を超える中小グループにも加入申請を出していた。
ハンターの任務は必ずチームで行う決まりだからだ。安全を確保するため、単独行動は認められていない。
二日後――結果が届いた。
クロを受け入れたのは、たった一つの小さなグループだけだった。
大きなグループは、名も無き新人を仲間に加える理由などなかったのだ。
――
その新しいチームは、正直寄せ集めだった。
メンバーは、クロを含めて三人。
リーダーは二十歳前後の青年。二日前にこのチームを結成したばかりだという。
もう一人は同じくらいの年頃の少女。昨日登録したばかりで、即日加入したらしい。
そして今日、クロが三人目となった。
こうして、見知らぬ三人は突如「仲間」となったのだ。
――
ハデシュはソララ最大の都市と呼ばれてはいるが、必ずしも最も繁栄しているわけではない。
寒冷な大地が広がるこの地域で、生き残れるのは海に近い限られた区域だけだった。
軽く挨拶を交わした三人は、最初の任務を受ける。
それは――放棄された鉱山の調査と採掘。
難易度は低く、危険性も少ないとされる依頼。まさに、新米チームにうってつけの仕事だ。
「鉱山か……大したことはなさそうだ。でも、何か面白いものが眠っているかもしれないな。」
クロは胸の奥で小さな期待を膨らませ、静かに目を輝かせた。




