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今日はクロの休養日だった。訓練をする必要もなく、彼は話題になっている試合を観戦しに闘技場へと向かった。
――ハタカ・レンツ。氷を受け継ぐ者と呼ばれる男が、新たな挑戦者と対決するという。
クロは興味があった。カゴの兄と噂されるその人物が、本当に噂通り強いのか確かめたかったのだ。
アナウンサーの声が観客席に響き渡る。
「続いては、ハタカ・レンツとその挑戦者との一戦です!!」
ゆっくりと、闘技場の両側の扉が開かれる。
一方の扉から現れたのは、白髪の痩せた青年。自信に満ちた足取りで進み出るその姿からは、氷のような冷ややかさが漂っていた。
もう一方からは、対戦相手の青年が現れる。しかしその表情は緊張でこわばり、一歩ごとに足が重く沈む。試合開始前から額に汗が滲んでいた。
「試合――開始ッ!!」審判の笛が鳴る。
直後、レンツは両手を前に叩きつけるように突き出した。
凄まじい氷の気流が放たれ、闘技場の床を瞬く間に凍らせていく。伸び広がる氷の軌跡からは、巨大な氷の虎が形作られた。
「グルァアアアッ!!」
氷の虎が轟音とともに疾走する。残光のように白く輝く氷の足跡を残し、その拳は対戦相手を粉砕せんと振り下ろされた。
「ひっ…!」
相手の青年は慌てて横に飛ぶ。
もし直撃していたなら――命さえ危うかっただろう。
しかしかすめただけでも、全身は震え、歯の根が合わずガチガチと音を立てる。冷気が四肢にまとわりつき、自由を奪っていった。
「そ、そんな……ばかな……」
一撃を受けるまでもなく、彼は闘技場の中央に膝をつき、全身を震わせたまま立ち上がることすらできない。
「お、降参します!!」
観客席が大歓声に包まれる。
ハタカ・レンツ――氷の怪物。その名は再び人々の記憶に深く刻み込まれた。
観戦していたクロは腕を組み、その光景を静かに見届ける。
「……なるほど。やはり手強いな。」




