086
クロの体はすでに限界に近づいていた。
全身は痛みに覆われ、肌は連続する爆発で焼け焦げ、呼吸は荒く、胸は今にも破裂しそうだった。
対面するハルトは、口元に冷たい笑みを浮かべる。
「やるな……あれだけ食らって、まだ倒れないとはな。」
クロは口端から流れる血を拭い、無理やり笑みを返す。
「だから……どうした…?」
しかし心の奥では理解していた――もう長くは持たない、と。
……駄目だ。このまま押され続ければ、俺は耐えきれない。
その瞬間、閃光のようにひとつの考えが脳裏をよぎる。
爆発は三度……まだ耐えられる。あと二発ぐらいなら持つはずだ。だが奴はどうだ? 俺の全力を受け切れるのか…?
クロの瞳が鋭く光る。
決めた……ここで賭ける!
拳を強く握りしめると、全身から力が解き放たれた。
炎と雷が渦巻き、体を包み込み、一振りの燃え盛る槍と化す。もはや迷いはない。
「うおおおおおおっ!!!」
クロは一気に加速し、ハルトへと突進する。走りながら次々と炎雷の矢を生み出し、赤き閃光が空気を切り裂いた。
爆弾に当たっても……まだ耐えられる! だが、この一撃さえ決まれば――勝負は終わる!
焦ったハルトは慌てて木の壁を作り出し、進路を塞ぐ。
だがクロは止まらない。
「どけぇぇぇっ!!!」
ドガァンッ!!
体ごと木壁を突き破る。そして予想通り――
ボオオオオムッ!!!
爆発が直撃する。炎がクロの体を包み込んだ。
だが、炎の海を切り裂き、一人の影が突き進む。血に染まり、顔は傷だらけ。それでも、その瞳は灼熱の光を宿していた。
「これが……俺の全力だぁぁぁっ!!!」
クロの手に宿る炎雷の矢が、ハルトの胸を貫く。凄まじい衝撃が彼を吹き飛ばし、闘技場の石壁に深々と突き刺さった。
重い衝突音が響き渡る。ハルトは目を見開いたまま、即座に意識を失う。
審判の旗が力強く振り下ろされた。
「勝者――クロ!!!」
観客席は歓声で揺れ動く。補助チームが慌ただしく飛び込み、ハルトは治癒魔法を施され、重傷のまま医務室へと運ばれていった。
クロもまた、二人の治癒術師に支えられ、癒しの光に包まれる。三十分ほどで重傷は癒え、呼吸も落ち着きを取り戻した。
だが、クロは長居しなかった。体が回復するとすぐに会場を後にし、賞金を受け取る。
そして空を仰ぎ、静かな瞳でつぶやく。
この勝負、確かに俺は勝った。……だが同時に、己の弱さを思い知らされた。
包帯に覆われた顔に、かすかな笑みが浮かぶ。
次は――もっと強くなってみせる。




