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試合まで残された時間は二週間。
だが、今のクロにはそれほど不安はなかった。これまで強敵を倒してきた自分を信じていたからだ。だが同時に、慢心すればそこまで。二週間での唯一の目標――それは「基礎体術を何としても身につけること」だった。さらに、ジェームズが言っていた「黄金の鎧」とは何なのか、その正体も気になっていた。
クロは独学だけでは限界があることを理解していた。そこで、街で最も有名な武館へ足を運ぶことにした。
武館に入った瞬間、クロは目を見張った。広々とした道場には子どもたちの掛け声と打撃音が響き渡り、汗が床に滴っている。まだ七、八歳にしか見えない子どもたちまで、真剣な眼差しで稽古に励んでいた。
「ここは……やはり本物だな。」クロの胸に興奮が広がる。
やがて彼は、武館の中央で腕を組んで見守っている大柄な男に近づいた。おそらく館主であり師範なのだろう。クロは深く頭を下げ、入門を願い出た。
学費は月五百ジャックと告げられた。クロにとって妥当な額だった。だが、彼は時間を無駄にしたくなかった。クロは真っ直ぐ師範の目を見据え、静かに、しかし断固とした声で言った。
「私は二週間しか学ばない。だが、五千ジャックを払う。その代わり、この二週間で全力で体術を叩き込んでほしい。理解できるか。」
その瞬間、道場の空気が凍りついた。稽古していた子どもたちが思わず振り返り、驚いた表情を見せる。館主は眉をひそめ、じっとクロを睨んだ。――まるで商売を邪魔されたとでも思っているように。だが、提示された金額は無視できなかった。少しの沈黙の後、彼は口の端を吊り上げて笑い、頷いた。
「いいだろう。ただし、付いて来られなければ容赦はしないぞ。」
クロは表情を変えず、さらに条件を突きつけた。
「だが、もしあなたが約束を果たせなければ……受け取れるのは二百五十ジャックだけだ。」
空気が一層張り詰めた。だが、師範は怒らなかった。むしろ鋭い眼光を放ちながら、ニヤリと笑った。
「面白い……よかろう。」
彼は手を振り、弟子たちに稽古を続けさせると、クロを奥の小部屋へと案内した。そこは簡素な稽古場で、木の床と吊るされた砂袋がいくつも並んでいる。
「まずはお前の力を試す。」
言うが早いか、師範はクロに向かって素早く拳を繰り出した。反射的にクロは身をひねって避けたが、次の瞬間、鋭い一撃が腹部に突き刺さった。クロは瞬時に腹筋を固めたが、衝撃は強烈で、体ごと吹き飛ばされ、床に叩きつけられる。
「ぐっ……!」
痛みに顔を歪めながらも、クロの瞳には光が宿っていた。これまでの相手とは明らかに違う――そう確信したからだ。
師範は腕を組み、冷静に見下ろしながら言った。
「悪くない。反射も早いし、腹筋も鍛えられている。現時点での力は理解できた。」
そして、口元に挑戦的な笑みを浮かべた。
「では……今すぐ稽古を始めるとしよう。」




