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ページをめくればめくるほど、クロウは自分が生きている世界がいかに広大で、複雑で、そして自分の想像をはるかに超えているのかを痛感していた。




これまでクロウが知っていたのは、自分の住む街の小さな一角だけだった。見慣れた通り、賑やかな屋台、簡素な訓練場――それが彼の「世界」のすべてだった。だが今、書物に記された歴史や地図、描かれた風景は、まるで幕が上がるかのように、彼の前に未知の光景を広げていく。




ソララ――。


彼の祖国にして、この大陸最大の国家。果てしない海に面し、豊かな大地を抱え、雪を頂く山脈にまでその領土は広がっている。地方ごとに異なる文化が息づき、鮮やかな祭りに沸く都市もあれば、古き伝統を厳かに守る村もある。クロウは想像する。自らの足でその地を踏み、目で見て、耳で聞き、肌で感じる自分の姿を。胸の奥から湧き上がる期待は抑えきれなかった。




だが、ソララだけではなかった。書物はさらに遠い国々を語っていた。


魔法を神聖視する国、鉄と軍事力で知られる帝国、そして人間とは異なる種族が暮らす不思議な土地――獣人、巨人、妖精族、海の民、ドワーフ……。クロウにとってはどれも未知であり、そして何より魅力的だった。




「世界は……こんなにも広いのか。」


そう呟いた瞬間、胸の奥に炎が灯る。


――この世界を旅してみたい。自分の目で、そのすべてを確かめたい。




だが、同時に悟っていた。いまの自分にはまだ力が足りない。


そのためにこそ、知識と修練が必要なのだ。




手にしていたのは《体術修練法》の書。ここ一週間、クロウは書に従い、ひたすら体を鍛え続けてきた。呼吸の整え方、筋肉の動かし方、限界を突破するための訓練……。確かに、体は以前より速く、強く、軽くなっているのを感じる。




もちろん、すべてが順調ではない。難解な理論は何度読み返しても理解できず、激しい鍛錬で体中が悲鳴を上げる日もある。だが、積み重ねた成果を実感するたびに、諦めかけた心に力が戻るのだった。




夕暮れの光が窓辺を照らす中、クロウはそっと本を閉じ、静かに微笑んだ。


――今の自分の生活は、決して豪華でも、恵まれているわけでもない。


けれど彼の目には、それが何よりも美しく映っていた。




初めて、自分の歩むべき道を見つけたのだから。


その先に広がるのは、誰も知らぬ大冒険。


そして、彼の胸を焦がす夢そのものだった。

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