069
ドォン!!!
開始の合図すら必要なかった。
瞬間、地面が大きく揺れ、観客席全体がざわめいた。
黒炎の軌跡 と 蒼氷の閃光。
二つの影が同時に消え、次の瞬間には轟音と衝撃波だけが残った。
ガキィン!!
炎を纏った黒の拳と、氷で覆われた蒼の腕が正面からぶつかり合う。
爆風のような圧力が四方に弾け飛び、観客たちの髪を逆立てた。
だが、それで終わりではない。
バンッ! バンッ! バンッ!
立て続けに拳と拳が交錯し、まるで雷鳴のように響き渡る。
足元には亀裂が走り、床は黒焦げと氷結の痕で埋め尽くされていく。
「やるな、クロ!」
氷の戦士――カゴが、残像の中から声を放つ。
「だがその程度の速さじゃ、オレの背中すら触れられねぇぞ!!」
次の瞬間、氷の残光がクロの背後に迫った。
ドゴォン!!
だがクロは反射的に振り返り、炎の拳で受け止める。
ギリギリで相殺したが、腕は痺れ、血管の奥まで凍り付くような寒気が走る。
「調子に乗るなよ、カゴ!」
クロの瞳が紅く燃え上がる。
「炎は氷を喰らい尽くすんだ!!」
ゴォォォッ!!!
拳に炎を集中させ、一気に押し返す。
だがカゴは床に氷を張り、滑るように後退したかと思うと――
ズバァッ!!!
さらに倍の速度で逆襲してくる。
観客席からは悲鳴混じりの歓声が溢れた。
「見えない!!」
「速すぎるぞ!!」
「まるで二本の稲妻だ!!」
火と氷の光跡が交差し、戦場は閃光と轟音の嵐と化した。
一瞬ごとに拳が交わり、炎が爆ぜ、氷が砕ける。
「その炎じゃ俺は倒せねぇ!!」
カゴが嗤いながら殴りかかる。
「なら、燃え尽きるまで喰らわせてやるよ!!」
クロが怒声と共に炎を膨れ上がらせる。
観客たちは立ち上がり、喉が裂けるほどの大歓声をあげた。
火と氷。
赤と青。
対極の二人が織り成す速度の戦いは、もはや武闘ではなく、ひとつの 神話の光景 のように映っていた。
だが――決着は、まだついていない。




