067
ジャムは腕を組み、半ば厳しく、半ば探るような目でクロウを見つめていた。
「正直に言うと、お前の技は時間がかかりすぎるし、手順も複雑だ。成功率も高くない。実戦でそんなに遅かったら、一秒の遅れで命を落とすだろう。だが……今はとにかく繰り返せ。休みたいなら休めばいい。私は気にしない。勝つか負けるかは自分次第だ。」
クロウは唇を噛み、何も答えなかった。だがその瞳には固い決意が宿っていた。体は疲弊していても、再び立ち上がり、両手にマナを込め、かつて放った“炎を纏った雷矢”を再現しようと必死に試みる。
しかし失敗の連続。エネルギーは渦を巻くが、形を成す前に霧散してしまう。両手は焦げ、震え、体は限界を訴えていた。ジャムは何度も癒しを施したが、励ましの言葉は一言もなかった。彼はただ冷たい鏡のようにクロウの執念を映し出していた。
時間は容赦なく過ぎていく。太陽が沈み、夜が訪れる頃になってもクロウは立ち続けていた。額の汗は血と混じり、衣服を濡らし、雷光は小さく瞬いては消えるばかり。
やがて深夜零時。クロウはついに体力を使い果たし、呼吸も荒く、目を閉じかけていた。ジャムは黙って頷き、休むよう合図を送る。
クロウはよろよろと自室に戻り、扉を閉めた瞬間にベッドへ崩れ落ちた。思考もなく、ただ深い眠りに沈んでいった。
翌朝。窓から差し込む朝日でクロウは目を覚ました。驚くべきことに、体は驚くほど軽く、頭も冴えていた。昨日の疲労が嘘のように消え去り、精神は鋭く澄んでいる。彼は立ち上がり、軽く体を動かし血流を整えた。決戦まで残り二時間。
この日はもう訓練をしなかった。すべての準備は整っている。重要なのは心を乱さず、集中を保つこと。
闘技場はすでに熱気に包まれていた。数百人もの観客が押し寄せ、歓声が轟く。中央では二つのチームが激突し、魔法の光と金属音が空気を震わせる。煙と血の匂いが混ざり合い、観客たちは興奮の極みに達していた。
クロウは賭場に足を踏み入れた。そこもまた熱狂に包まれ、叫び声や金のやり取りが飛び交っている。
ひげを生やした大柄の男が机の向こうで金を受け取っていた。クロウに目をやり、低い声で尋ねる。
「坊主、誰に賭ける? いくらだ?」
クロウは重い袋を机に置いた。金貨の音が響き、人々の視線が集まる。
「全額だ。」クロウは静かに、だが確固たる口調で言った。「次の試合、アイスデン・クロウに。」
男は目を細め、意外そうに笑った。
「はあ? 初陣の小僧に全額か? 命知らずだな。」
しかし彼は愉快そうに肩をすくめた。
「いいだろう。ただし、勝ったら名前を教えてもらうぞ。金を渡さねえといけねえからな。」
クロウは拳を握り、真っ直ぐに答えた。
「俺の名は……アイスデン・クロウだ。」
その一言に、周囲は一瞬静まり返った。だがすぐにざわめきが広がり、嘲笑や好奇の視線がクロウに注がれる。
しかし当の本人は何も気にせず、ただ闘技場を見つめた。
数時間後、彼はその場所に立ち、生死を賭けた戦いを迎えるのだった。




