064
ジャメが消えた瞬間、真っ白な部屋は不気味なほど静まり返った。
クロは固まったまま、こめかみから汗が一筋流れ落ちる。
彼は一歩踏み出そうとしたが──まるで世界全体が身体にのしかかってくるように重い。
鉛のような服が全身を引きずり下ろし、靴は床に沈み込む。
クロは歯を食いしばり、全力で足を持ち上げると、汗が滝のように流れ出した。
――ヒュッ!
頭上から黒い影が急降下してくる。
反応する間もなく、鳥のくちばしが肩に触れた。
「アアアアアーーッ!!!」
全身を切り裂くような電流が走る。
筋肉がはじけ飛びそうに痙攣し、視界が真っ白になり、背中が床に叩きつけられた。
呼吸が止まりそうになり、心臓は暴れるように脈打つ。
やっとの思いで手をついて起き上がろうとした瞬間、近くのチンピラがニヤリと笑い、手で円を描いた。
小さな火球が現れ、クロに向かって一直線に飛ぶ。
ドンッと爆ぜて腕に焼けるような痛みが走り、焦げた匂いが立ち込める。
次の瞬間、別のチンピラが地面に魔法陣を描き、足元の床が盛り上がってクロを前のめりに転ばせた。
立ち上がる間もなく、横から蹴りが飛んできて転がる。
肋骨が折れたかと思うほどの激痛、息が詰まる。
肉体だけでなく、精神まで砕かれていくようだった。
まだ五分しか経っていない……
クロは荒い呼吸を繰り返し、手が震えて床にしがみつく。
だが重い服のせいで足が震え、思うように立ち上がれない。
また一羽の鳥が急降下し、――バチン!――再び電撃が走る。
クロは絶叫し、血が滲むほど歯を食いしばった。
十分後。
電撃は十回以上、全身は焼けるように痛む。
汗と血が混じり合い、顔を伝い落ちる。
チンピラたちは本気ではなく、遊んでいるかのように少人数ずつ現れ、
クロが立ち上がるたびに風、土、火の初歩魔法で叩き落とす。
十五分後。
両膝が裂け、血が床に広がる。
顔を上げるたびに拳が飛んできて、胸に鈍い衝撃が響く。
息がヒューヒューと鳴り、まるで溺れかけの魚のようだ。
二十分後。
視界がぼやけ、耳鳴りがし、心臓の鼓動が不規則になる。
魔法の突風に吹き飛ばされ、空中で無様に回転して床に叩きつけられた。
吐き気をこらえる間もなく、三人のチンピラが同時に蹴りを放ち、
腹、胸、背中に鈍痛が走る。
二十五分後。
二十回を超える電撃、何十発もの拳と蹴り、全身打撲だらけ。
腕の感覚はなく、筋肉は悲鳴を上げ続ける。
動くたびに頭に鋭い痛みが走り、目の前が赤黒く揺れる。
三十分後。
クロは膝をつき、両手で床を押さえ、汗を滴らせる。
胸は大きく上下し、呼吸は鋭い笛のように響く。
あと一撃で意識を失いそうだと感じるほどだった。
だがその瞬間、ジャメの言葉が脳裏に響く。
「気絶するな。最後まで耐えろ。」
クロは唇を噛み、血の味を感じながらゆっくり立ち上がる。
全身が震えながらも、瞳には決意の炎が宿った。
ここで倒れない──そう宣言するかのように。




