063
翌朝、いつものようにジェイムはクロウの部屋に上がってきた。
しかし扉を開けた瞬間、目の前の光景に思わず足を止めた。
クロウはいつものように寝てはいなかった。
彼は床に膝をつき、汗でシャツがびしょ濡れになり、息を荒くしながら、自主的にトレーニングをしていたのだ。
ジェイムは喉を鳴らすように笑い、部屋中に響き渡る声で言った。
「ははっ、やるじゃねぇか坊主! 試合が近いから、必死になって早朝から鍛えてるってわけか?」
彼は腕を組み、クロウを見下ろした。
「いいか、教えてやる。人間の体には単純な法則がある。
死なずにダメージを受け続ければ、その分だけ強くなるんだ。
聞いたことあるだろ、『お前を殺さないものはお前を強くする』ってやつだ。
だから毎日、俺はお前の体を限界まで追い込んでるんだ。」
ジェイムは口元を歪めた。
「普通なら、体術フィジカルアーツの第一段階を会得するのに半年はかかる。
才能があっても三ヶ月は必要だ。
だが、お前の成長速度と、俺が直々に鍛えてやってることを考えれば……二週間でいける。」
「……もういい、言い訳はするな。」
ジェイムはクロウの思考を遮るように言い、
虚空に手を突っ込み、黒い装束を取り出した。
見た目は薄っぺらいシャツだが、床に落ちた瞬間「ドスン」と重い音を立てた。
クロウは目を見開いた。
「このシャツは10キロ、ズボンも10キロ、靴は片足3キロだ。さっさと着ろ。」
クロウは歯を食いしばりながら装備を着込む。
着た瞬間、体が鉛のように重くなり、一歩動くだけで息が苦しくなる。
不思議なことに服はほとんど透明のように見えないが、重さだけは確実に存在した。
ジェイムはニヤリと笑う。
「勘違いするなよ、防具じゃねえ。ただの重りだ。殴られた痛みはそのまま残る。それが狙いだ。」
そう言うと、彼はクロウの肩に手を置いた。
瞬間、景色がぐるりと回転し、
真っ白な、果てしなく広い空間へと変わった。
床から影がせり上がり、
200体ほどのチンピラの幻影が形を成す。
頭上では、100羽以上の黒い鳥が旋回していた。
「ルールは簡単だ。10時間、気絶するな。回復もなしだ。
こいつらはお前が倒れるまで攻撃してくる。」
言い終えると、ジェイムの姿はスッと消えた。
「なっ……?」
クロウが状況を理解する間もなく——
バチッ!
一羽の鳥が急降下し、嘴でクロウの頭に触れた。
「ぐあああああっ!」
全身を激しい電流が駆け抜け、クロウは床に叩きつけられる。
歯を食いしばった衝撃で、口の中に血の味が広がった。
立ち上がる暇もなく、四方からチンピラが四人飛びかかってきた——




