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その夜、クロウは前夜負けた空き地に再び現れた。
月は高く、白い光が地面を照らしている。
あの男はすでにそこに立ち、腕を組んで待っていた。
「来たか。」男は口角を上げた。
クロウは黙ってうなずき、拳を握りしめる。
男はゆっくり歩み寄り、クロウの肩を強く叩いた。
「いいか、ガキ。昨日お前と戦って分かった。お前は魔法に頼りすぎだ。
マナが尽きたらどうする? 戦場ではただの子供だ。」
男はクロウの胸を指差す。
「体術こそが戦士の基礎だ。
第一段階――《黄金甲》は、体を覆う金色の鎧を生み出す。
それで体は速く、強くなり、さらにマナの器も大きくなる。
だが、それを発動するには体を限界まで追い込む必要がある。
骨も筋肉も悲鳴を上げるまで、な。」
クロウはごくりと唾を飲み、力強くうなずいた。
「やります。」
「よし。なら始めるぞ。」
男はクロウに自分の体重の二倍はありそうな砂袋を投げ渡した。
「この空き地を50周走れ。
途中で倒れたら、這ってでもゴールしろ。」
クロウは歯を食いしばり、袋を担いで走り始めた。
一周、また一周と汗が背中を濡らす。
30周目には足が震え始めたが、クロウは止まらない。
「悪くない。だが、これはまだ準備運動だ。」
男は腕を組んで冷たく言い放つ。
走り終わると、今度はスクワット、腕立て、跳躍を延々と繰り返させられる。
筋肉は裂けそうで、汗は地面に滴り落ちる。
「体の中を流れるマナを感じろ!
外に出せ!」男が叫ぶ。
クロウは目を閉じ、集中した。
体の奥底から熱い力が込み上げ、全身が震える。
「倒れるな! 倒れたら最初からだ!」
クロウは叫び声を上げ、立ち上がる。
その瞬間、ぼんやりとした黄金の光が体を包んだが、すぐに消えた。
男の目が光り、口元に笑みが浮かぶ。
「それだ! もっと維持しろ!」




