057
翌朝、ハデシュの空はまだ薄い霧に包まれていたが、東広場はすでに人で埋め尽くされていた。
第二ラウンドともなれば、もう遊び半分ではない。本当に強い者しか残っていない。
クロウは無表情のまま会場に入り、上着のフードを深くかぶる。
控室の片隅に腰を下ろし、周囲の顔ぶれをじっと観察する。
昨日のような軽い笑い声はもうない。
響くのは足音、武器の金属音、そして時折交わされる鋭い視線だけだった。
「今回は、簡単にはいかないな……」
クロウは拳を強く握り、心の中でつぶやいた。
その時、魔力スピーカーから声が響いた。
「第二ラウンドの組み合わせ抽選を開始します!」
観客席から歓声が上がる。
次々と読み上げられる名前に会場が沸く。
有名な強豪同士が当たれば、ざわめきはさらに大きくなる。
クロウは黙って耳を傾けていた。
……そして。
「第十二試合――アイスデン・クロウ 対 ハタカ・カゴ!」
その瞬間、会場全体がどよめいた。
「ハタカ・カゴ!? 二年前トップ10に入ったハタカ・レンツの弟じゃないか!」
「マジかよ、レンツと同じくらい強いって噂だぞ!」
「いや、弟の方が速いって聞いた。‘若き狼’って呼ばれてるんだ。」
クロウはほんの一瞬だけ動きを止める。
「ハタカ……カゴか。」
掲示板に表示された名前をもう一度確認し、胸の鼓動が速くなるのを感じる。
ただの大会じゃない――本当の戦いが始まる。
周囲ではまだざわざわと噂が飛び交う。
「クロウって誰だ? 一回戦で火属性の大技を撃ったってやつか?」
「でもカゴは炎に強いぞ。面白い勝負になりそうだ。」
クロウは無言のまま席を立ち、フードを深くかぶり直して控室を出た。
帰り道、魔力新聞を一部買って読みながら歩く。
そこにはハタカ家の特集記事が載っていた。
北部の戦士一族、幼少期から厳しい訓練を受け、兄レンツはトップ10に入った実績あり。
弟カゴは14歳にして“若き狼”の異名を持ち、速度と攻撃回数では兄をも上回ると評されている。
クロウは新聞を折りたたみ、ポケットに突っ込むと、鋭い目で前を見据えた。
「速さ、ね……いいだろう。どっちが速いか、試してやる。」
宿に戻るとしっかり夕食を取り、その後すぐに練習を始めた。
夜の中庭で、パンチ、キック、回避動作を何十回も繰り返す。
筋肉が痛み、汗が背中を伝うまで止まらなかった。
クロウは知っていた。
明日の戦いは、ただの試合じゃない。
――自分がこの街で生き残る価値があることを証明する戦いだ。




