056
クロウは宿に戻ると、古びたベッドに体を投げ出した。
さっき奪った金をすべて取り出し、一枚一枚数え始める。
「ふぅ……やったな。今回で480ジャックか。これで少しはゆっくりできそうだ。」
天井を見上げながら横になるクロウ。だが数秒後、頭の中に危険な考えがひらめいた。
「待てよ……俺、昔は盗みや騙しで生き延びてきたんだ。わざわざ真面目に暮らす必要なんてあるか?
夜遅くなったらチンピラどもを待ち伏せして金を奪えばいい。金も手に入るし、ついでに鍛錬にもなるじゃねぇか。」
口元がニヤリと歪む。
「そうだな……そっちのほうが手っ取り早いし、強くなれる。」
その日のうちにクロウは400ジャックを使って、一か月分の宿代を前払いした。
これでしばらく路頭に迷う心配はない。
それからの日々、クロウの生活は決まったリズムを持つようになった。
昼は街をぶらつき、小さな本屋で世界の歴史や魔法、各勢力の情報を読み漁る。
夜は月明かりの下、笑みを浮かべた仮面をつけ、暗がりで獲物を狙う。
最初は酔っぱらいや迷い込んだチンピラを狙っていたが、次第に標的は危険になり、
魔力を持つ連中や、魔法戦闘が得意なやつらともやり合うようになった。
時には全身血まみれになり、服もボロボロになる夜もあったが、
その度にクロウは自分の成長を実感した。
動きは速く、打撃は重く、体内を流れる魔力も以前より滑らかに循環している。
やがて街には、笑顔の仮面をつけた「謎の襲撃者」の噂が広がった。
チンピラどもは彼を恐れと憎しみを込めて、**「笑う悪魔」**と呼ぶようになった。
そして、時は流れ、一か月後。
クロウは貯めた金で数か月は生きていけるほどになり、体もさらに鍛え上げられていた。
ある日、次の試合の通知が宿に届く。
紙を手に取ったクロウはじっと目を通す。
「第二回戦 – 開始時刻 午前7時
残り参加者数:200人」
クロウの口元に自信満々の笑みが浮かんだ。
「200人か……面白くなってきたな。今度は誰が俺の前に立ちはだかる?」
ぎゅっと拳を握りしめると、手の中で魔力が淡く輝いた。
その夜、クロウは狩りに出なかった。
部屋の中央に座り、目を閉じて呼吸を整え、
明日の試合に向けて魔力を練り上げていった。




