054
クロウは控室に戻り、椅子にかけてあった自分のコートを手に取ると、ゆっくりと羽織って外へ出た。
初めての試合は終わり、勝者として名前が広まっているのだろうが、クロウはそれよりもただ安堵していた。
闘技場を後にしたクロウは、昨日働いた食堂へ足を運んだ。
店主はテーブルを拭いていたが、クロウを見ると満面の笑みを浮かべて手招きした。
「おお、昨日の坊主か! ほら、座れ座れ。」
今日の店は昨日よりも賑わっている。
客の声、皿の音、香ばしい匂いが店中に広がっていた。
クロウは片隅に座り、食事をする人々を眺めながら、なぜか胸が温かくなるのを感じた。
閉店間際、店主はクロウの前に大皿を置いた。
「今日はおごりだ。腹いっぱい食え。それと、もし金が欲しいならまた来い。仕事を用意してやる。」
クロウは深く頭を下げ、皿の料理をきれいに平らげた。
昨日の報酬のおかげで、40ジャックを払い三日分の宿を確保できた。
寝床があり、腹も満たされる――ほんの少しだが、街での生活が形になってきた気がした。
その夜、クロウは街をぶらついた。
夜の街は、まるで昼間とは別世界だった。
魔法灯が通りを照らし、石畳がきらきらと輝く。
人々の笑い声や酒場から流れる音楽が響き渡り、屋台の焼き肉やスープの匂いが漂ってくる。
クロウは深呼吸し、思わず笑みをこぼした。
だが、細い路地に入った途端、空気が一変する。
闇の中から六つの影が現れ、道を塞いだ。
ボロボロの服を着た若者たちが、不敵な笑みを浮かべてクロウを取り囲む。
先頭の一人がニヤリと笑い、近づいてきた。
「おい坊主、見ねえ顔だな。金、持ってんだろ? 見せてみな。」
クロウは無言で相手を見据えた。
心臓の鼓動がゆっくりになる。
こいつらはただの物取りではない――街に来たばかりの自分を狙ったのだと悟る。
別の一人が嘲笑するように言った。
「どうした? 黙っちまったか? それとも六対一でやる気か?」
クロウは薄く笑い、ゆっくりとコートを脱いで肩にかけた。
「……いいだろう。」
声は低く、しかし路地の静寂に響いた。
クロウは重心を落とし、足をしっかりと地面に構え、片手を前に、もう片手を後ろに引く。
目は鋭く、相手の一挙手一投足を逃さない。
「ははっ、ガキがやる気だぞ!」
一人が声を上げ、残りも笑い声をあげる。
しかし、クロウはまったく動じない。
呼吸を整え、体内の魔力を感じ取る。
炎が再び燃え上がろうとしている――そんな感覚が全身を駆け巡る。
狭い路地に、ぴんと張り詰めた空気が流れた。
六人が半円を描いて取り囲む。
それでもクロウの気迫は、一人とは思えないほど鋭く、相手の足が一瞬止まるほどだった。
「六対一か……いいさ。どっちが先に倒れるか、試してみろ。」




