053
ついに、クロウの番がやってきた。
魔力拡声器から響き渡るアナウンスが、会場中に広がる。
「――出場者、アイスデン・クロウ! アリーナへ入場!」
重々しい鉄の扉がゆっくりと開く。
暗い通路の奥からクロウが一歩踏み出した瞬間、
眩しい光が一斉に降り注ぎ、思わず目を細める。
どよめき、歓声、太鼓の音、名前を叫ぶ声――
すべてが波のように押し寄せ、胸の奥がドクンドクンと鳴り響いた。
対面の扉が開くと、対戦相手が現れた。
年の頃は十二、三。小柄だが、瞳は闘志に燃えている。
二人は中央で向かい合い、互いに手を取り合って握手を交わす。
審判が手を上げ、短く告げた。
「――位置につけ!」
二人はゆっくりと後退し、それぞれの持ち場へ立つ。
観客席は水を打ったように静まり返り、視線が二人に注がれる。
「――始めッ!」
笛の音が響いた瞬間、クロウの体が動いた。
迷いは一切ない。
拳を前に突き出し、全身の魔力を一点に集中させる。
「――はあっ!」
破裂音とともに、クロウの拳から巨大な炎柱が噴き出した。
燃え盛る火炎は轟々と音を立て、一直線に相手へと襲いかかる。
観客席から悲鳴混じりの歓声が上がり、熱気に顔を覆う者まで出るほどだった。
炎は十秒間、獣の咆哮のように暴れ続け、
黒焦げの痕跡を残してゆっくりと消え去った。
クロウが手を下ろしたとき、対戦相手はその場に倒れていた。
命に別状はなさそうだが、完全に気絶している。
一瞬の静寂――
そして次の瞬間、観客席が爆発したかのように沸き立った。
「な、何だあの炎は!?」
「信じられない……あんな威力、子供の魔法か?」
「誰だ、あいつは……!」
審判がクロウの手を高々と掲げ、宣言する。
「勝者――アイスデン・クロウ!!!」
割れんばかりの歓声が会場を包み込む。
立ち上がって拍手する者、口笛を鳴らす者もいた。
クロウは汗を滴らせ、息を荒げながらも、
その瞳には新たな炎が宿っていた。
さっきまでの戦いよりも、さらに熱く、さらに強い――
未来への渇望という名の炎が。




