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翌朝、狭い窓から差し込む朝日が、まっすぐ顔に当たり、クロは眉をひそめた。


目をこすり、背伸びをし――そして、凍りついた。




背負っていたはずのバッグが、消えていた。


クロは跳ね起き、シーツや枕をめくり、ベッドの下を覗き、棚も開けて確認する。


……どこにもない。


わずかなコインも、着替えも、防寒用の上着さえも、跡形もなく消えていた。




心臓が激しく脈打ち、喉が詰まる。


クロは部屋を飛び出し、息を切らして受付へ駆け下りた。




「き、昨日一緒に来たあの人は!?どこに行った!?」




受付のふくよかな女性は、カップを拭きながら面倒くさそうに答えた。


「昨夜の真夜中に出て行ったわよ。ああ、それとね、あんたの部屋、今日でカードの期限が切れるから。今夜までに出ていってね。」




クロはその場に立ち尽くした。


街の喧騒が遠のき、耳には自分の心臓の音だけが響く。


ゆっくりと顔を伏せ、両手で髪を掻きむしる。




「なんで……どうしてこんなことに……」




ふらふらと部屋に戻り、冷たい床に崩れ落ちる。


バッグはない。


お金もない。


頼れる人もいない。




巨大な都市で、ただ一人。


着ている服以外、何も持たない異国の少年。




クロは膝を抱え、震える足を押さえつけた。


頭の中では最悪の光景が次々と浮かぶ。


宿から追い出され、街をさまよい、警備兵に捕まり、スリに襲われ……


もしかしたら、もっと酷いことになるかもしれない。




唇を噛みしめ、血がにじむ。


目が熱くなるのに、涙は出てこない。


全身から力が抜け、ただ天井を見上げて倒れ込む。




遠くから鐘の音が聞こえ、ハデシュの朝が始まったことを告げている。


外の世界は今日も動き続ける。


人々は食べ、笑い、取引をする。


だが、クロには――


この部屋を追い出されるまで、残された時間はほんの数時間しかなかった。

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