046
長い道のりのあと、車はついに大通りを外れ、ソララ最大の都市、ハデシュの郊外へ入った。
クロは窓ガラスに顔を近づけ、外の景色を食い入るように見つめた。
最初に見えたのは、低い家々と人影の少ない通りだけだった。
しかし、車が奥へ進むにつれて、景色はどんどん変わっていった。
道は広がり、街灯が白く輝き、無数の高層ビルが林立して、まるで空へ伸びる鉄の柱のようだった。
クラクションの音、人々の話し声、巨大スクリーンから流れる広告の声――すべてが同時にクロの耳へ飛び込んできた。
クロはごくりと唾を飲み込み、心臓が早く打つのを感じた。
「これが……都市なのか……?」
車は大きな交差点で止まった。
目の前には、横断歩道を埋めつくすほどの人の群れ。
彼らは最新の服を着て、カバンやスマホを持ち、誰一人クロに目を向けることなく、せわしなく歩いていく。
排気ガスの匂いに、屋台から漂う焼き菓子の甘い匂いが混じる。
ビルに取り付けられた無数のLED看板が色とりどりに点滅し、通り全体を照らしていた。
クロはこの巨大な世界の中で、自分がとても小さく感じられた。
「ハデシュへようこそ。」
運転手は微笑んで、クロにリュックを手渡した。
「ここから先は、自分の足で進むんだ。」
クロは車から降りた。
地面が揺れているように感じるほど、車輪の音と足音が響いている。
街の風が顔に吹きつけ、アスファルトとエンジンの熱い匂いを運んでくる。
彼は見上げた。
空を覆い隠すほどにそびえ立つビル群。
クロの瞳には、何百枚もの電光掲示板が映り込み、まるで別世界に来たかのようだった。
「ガク先生……ここは、先生がかつて来た場所なのか……?」
クロは小さくつぶやいた。
子どもたちの笑い声が、突然横を駆け抜けた。
信号が青になると、カップルが手を取り合って横断歩道を駆け抜けていく。
屋台の店主が大声で呼び込み、漂う食べ物の匂いがクロの腹を刺激した。
――生まれて初めて、クロは本当に別の世界へ踏み込んだと実感した。
騒がしく、複雑で、それでも無限の可能性に満ちた世界へ。




