表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/124

004

私のブックマーク

少女が顔を上げた瞬間、街灯の下でその表情がはっきりと浮かび上がった。


透き通るような肌、整った顔立ち、揺れる瞳――その美しさに、クロウは思わず言葉を失い、胸が高鳴った。


喉が渇くように唾を飲み込み、どう話しかけていいか迷う。


だが、その寂しげな瞳が不思議と彼の心を引き寄せた。


—「…どうして、こんな夜に一人でいるんだ?」と、クロウは少し震える声で問いかけた。


少女はしばらく黙っていたが、やがて小さく答えた。


—「両親と喧嘩したの。ずっと私のことを分かってくれない…。だから、家を飛び出してきたの。家にいても、息が詰まるだけだから。」


クロウは眉をひそめた。


自分も孤独を知っているが、夜の街に少女が一人でいる危うさも理解していた。


—「外は危ないよ。両親だってきっと心配してる。怒ってても…帰れる場所は家しかないんだ。」


少女はうつむき、すぐには答えなかった。


クロウは手にしていた温かいパンを差し出す。


—「食べなよ。それから考えればいい。…俺は、君が帰った方がいいと思う。」


少女はクロウをじっと見つめ、その瞳にわずかな揺らぎが走った。


沈黙のあと、唇がわずかに動き、何かを言おうとするが――


(そこで物語は途切れ、読者の好奇心を強く残す)


少女はクロウから受け取ったパンを大切そうに抱え、最初は小さくちぎって口に運んでいた。


だが、空腹と温かな香りに抗えず、気づけば一口残らず食べ終えていた。


クロウは黙ってその様子を見ていた。


だが、夜空を仰いだ瞬間、胸の奥がぎゅっと締めつけられる。


「俺はいったい何をしてるんだ、クロウ…?


食べ物だってろくに持ってない。


家族なんてとっくにいないくせに、まるで誰かの真似事をしているみたいじゃないか。」


苦笑ともため息ともつかぬ息を漏らし、クロウは少女に向き直った。


—「もう大丈夫だろ? じゃあ…君の家を教えてくれ。俺が送っていく。」


少女はマフラーを握りしめ、数秒間沈黙した。


迷うように揺れる瞳。信じるべきか、それとも背を向けるべきか。


—「…本当に、送ってくれるの?」


クロウは強く頷き、真剣な目で答える。


—「ああ。君の両親のためじゃない。君自身のためだ。こんな夜道に一人でいるべきじゃない。」


冷たい風が吹き抜ける。少女は視線を落とし、やがてゆっくりと手を上げ、街の奥の暗い路地を指さした。


クロウは拳を握りしめ、一歩前へ出る。


胸の奥に、これまで感じたことのない奇妙な感情が渦巻いていた。


しかしその瞬間——。


路地の陰で、黒い影がわずかに動いた…。


家の奥から漏れる暖かな灯りが、冷たい夜をやわらげていた。


クロは黙って歩き続け、やがて二人は古びた木の門の前に立った。


クロは軽く門を叩き、小さく言った。


――「着いたぞ。入れ。」


少女は唇を噛み、不安そうに目を伏せた。


だが、その時。


門が勢いよく開き、二つの影が飛び出してきた。


母親は涙を流しながら娘に駆け寄り、強く抱きしめた。


父親も膝をつき、娘を抱きしめるように腕を回した。


――「娘よ…! 帰ってきたのか!」


――「お父さん…お母さん…!」


少女は声を上げて泣き、母の肩に顔を埋め、父の服をぎゅっと握った。


再会の抱擁は、灯りの下でひときわ温かく輝いていた。


クロは門の外に立ち、静かにその光景を見つめた。


口元にはかすかな笑みが浮かんでいたが、その瞳は熱く滲んでいた。

私のブックマーク

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ