004
私のブックマーク
少女が顔を上げた瞬間、街灯の下でその表情がはっきりと浮かび上がった。
透き通るような肌、整った顔立ち、揺れる瞳――その美しさに、クロウは思わず言葉を失い、胸が高鳴った。
喉が渇くように唾を飲み込み、どう話しかけていいか迷う。
だが、その寂しげな瞳が不思議と彼の心を引き寄せた。
—「…どうして、こんな夜に一人でいるんだ?」と、クロウは少し震える声で問いかけた。
少女はしばらく黙っていたが、やがて小さく答えた。
—「両親と喧嘩したの。ずっと私のことを分かってくれない…。だから、家を飛び出してきたの。家にいても、息が詰まるだけだから。」
クロウは眉をひそめた。
自分も孤独を知っているが、夜の街に少女が一人でいる危うさも理解していた。
—「外は危ないよ。両親だってきっと心配してる。怒ってても…帰れる場所は家しかないんだ。」
少女はうつむき、すぐには答えなかった。
クロウは手にしていた温かいパンを差し出す。
—「食べなよ。それから考えればいい。…俺は、君が帰った方がいいと思う。」
少女はクロウをじっと見つめ、その瞳にわずかな揺らぎが走った。
沈黙のあと、唇がわずかに動き、何かを言おうとするが――
(そこで物語は途切れ、読者の好奇心を強く残す)
少女はクロウから受け取ったパンを大切そうに抱え、最初は小さくちぎって口に運んでいた。
だが、空腹と温かな香りに抗えず、気づけば一口残らず食べ終えていた。
クロウは黙ってその様子を見ていた。
だが、夜空を仰いだ瞬間、胸の奥がぎゅっと締めつけられる。
「俺はいったい何をしてるんだ、クロウ…?
食べ物だってろくに持ってない。
家族なんてとっくにいないくせに、まるで誰かの真似事をしているみたいじゃないか。」
苦笑ともため息ともつかぬ息を漏らし、クロウは少女に向き直った。
—「もう大丈夫だろ? じゃあ…君の家を教えてくれ。俺が送っていく。」
少女はマフラーを握りしめ、数秒間沈黙した。
迷うように揺れる瞳。信じるべきか、それとも背を向けるべきか。
—「…本当に、送ってくれるの?」
クロウは強く頷き、真剣な目で答える。
—「ああ。君の両親のためじゃない。君自身のためだ。こんな夜道に一人でいるべきじゃない。」
冷たい風が吹き抜ける。少女は視線を落とし、やがてゆっくりと手を上げ、街の奥の暗い路地を指さした。
クロウは拳を握りしめ、一歩前へ出る。
胸の奥に、これまで感じたことのない奇妙な感情が渦巻いていた。
しかしその瞬間——。
路地の陰で、黒い影がわずかに動いた…。
家の奥から漏れる暖かな灯りが、冷たい夜をやわらげていた。
クロは黙って歩き続け、やがて二人は古びた木の門の前に立った。
クロは軽く門を叩き、小さく言った。
――「着いたぞ。入れ。」
少女は唇を噛み、不安そうに目を伏せた。
だが、その時。
門が勢いよく開き、二つの影が飛び出してきた。
母親は涙を流しながら娘に駆け寄り、強く抱きしめた。
父親も膝をつき、娘を抱きしめるように腕を回した。
――「娘よ…! 帰ってきたのか!」
――「お父さん…お母さん…!」
少女は声を上げて泣き、母の肩に顔を埋め、父の服をぎゅっと握った。
再会の抱擁は、灯りの下でひときわ温かく輝いていた。
クロは門の外に立ち、静かにその光景を見つめた。
口元にはかすかな笑みが浮かんでいたが、その瞳は熱く滲んでいた。
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