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034

深夜。


クロウはゆっくりと目を開けた。頭はくらくらし、病院の薄暗い灯りが揺れている。


壁の時計は、ちょうど午前二時を指していた。




部屋は静まり返り、窓の外から風の音だけが響く。




ベッドのそばでは、二人の仲間が不安そうに立っていた。


ひとりが低い声でつぶやく。


「この件で…俺たち、無事でいられるかな。もし誰か死んでたら、絶対に捕まる…」


もうひとりが顔をしかめ、震える声で答える。


「でも、俺たちはまだ未成年だ…たぶん刑務所じゃなく、少年院に入れられるだけだろう…」




その言葉がクロウの頭の中で反響し、さらに痛みを強くした。


全身に巻かれた包帯は血を滲ませ、焼けるように痛む。


それでも、彼はふらつきながら立ち上がり、静かに病院を後にした。




彼が向かったのは、家でも隠れ家でもなかった。


――最初に思い浮かんだのは、心の中で想いを寄せる少女の家だった。




屋根の下で立ち止まり、窓を見上げる。


そこには、眠っている彼女の姿がかすかに見えた。


クロウは小さく窓を叩いた。




かすかな音に気づき、彼女は目を覚ます。


ぼんやりとした瞳が、傷だらけのクロウの姿をとらえた瞬間、驚きで息を呑む。




クロウはかすれた声で、かろうじて笑いながら言った。


「…俺は遠くへ行かなきゃならない。どうか幸運を祈ってる。」




少女は息をのんだまま、小さく震える声を返す。


「どうして…私の本当の名前を知ってるの?」




クロウは微笑を浮かべ、かすかに首を振った。


「ミユっていうのは…偽名なんだろ? 本当の名前を…教えてほしい。」




一瞬の沈黙。


そして、まるで最後の秘密を解き放つように、彼女は小さな声で答えた。


「…白井ナオミ。」




その瞬間、クロウは残った力を振り絞り、息を切らしながら叫ぶ。


「ナオミ…! 俺は君が好きだ。」




言い終えると同時に、クロウは背を向け、夜の闇に消えていった。


窓辺に残されたナオミは呆然と立ち尽くす。


胸は震え、瞳は涙で滲む。




静かな闇の中、彼女の心にいつまでも響いていたのは――




**「君が好きだ」**という言葉だけだった。

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