003
私のブックマーク
午後二時。
冷たい風が石畳の通りを吹き抜ける中、クロウはリクと二人の子供を連れて西の市場へ向かっていた。
リクは先頭を歩き、その鋭い目つきはまるで獲物を狙う刃のようだった。
後ろにはタオとミリという二人の子供。クロウより少し年下だが、目の奥には何度も危険をくぐり抜けてきた者の光があった。
「いいか、よく聞け」
リクの低い声には圧があった。
「標的はローデン雑貨店だ。店主は金をカウンターの下の木箱にしまっている。タオが注意を引きつけ、ミリは外で見張れ。クロウ――」
彼は横目でクロウを見て、口角をわずかに上げた。
「お前が金を盗む。失敗したら、今夜の飯は抜きだ。」
クロウは唾を飲み込み、黙ってうなずいた。
手のひらが汗ばんでいた。
西の市場
人々の声、荷車の音、野菜の香り――すべてが混ざり合い、活気ある喧騒が広がっていた。
クロウはフードを深くかぶり、ローデンの店に足を踏み入れる。
店主は中年の男で、濃い髭と冷たい眼光を持っていた。
クロウが野菜を眺めるふりをしていると、外からリクの短い口笛が聞こえた。合図だ。
タオがわざと老婦人にぶつかり、リンゴの籠が床に転がった。
人々の視線がそちらへ集まる間に、クロウはすばやくカウンターの下へ手を伸ばした。
木箱があった。錠前は簡単な鉄の留め具だ。
リクに渡された細いナイフでそっとこじ開ける。
中には、銀貨がきらめいていた。
クロウはその一握りをポケットに入れようとした――その瞬間。
「何をしている、小僧。」
背後から低い声が響いた。
クロウが振り向くと、店主の手が光を放つ。次の瞬間、渦を巻いた水流が鞭のように襲いかかった。
「うっ――!」
体ごと弾き飛ばされ、床に叩きつけられる。息ができない。
店主は怒鳴った。
「盗人め! この俺が魔術を使えないと思ったか!?」
そのとき、リクが飛び込んできた。
彼の足元に魔法陣が浮かび上がる。
「――《ファイアボルト》!」
炎の矢が放たれ、壁に当たって爆ぜた。
店内が熱気に包まれ、水の魔術が蒸気に変わる。
「走れ、クロウ!」
リクが叫び、クロウの腕をつかんで引き上げた。
外ではミリが白い粉袋を投げ込む。
ドンッ! 煙が広がり、視界が真っ白に染まる。
四人はその隙に狭い路地を駆け抜けた。
息が切れ、心臓が焼けるように痛い。
夜の帳
やがて空は暗くなり、白い雪が舞い始めた。
彼らはようやく古びた倉庫に戻り、息を切らして倒れ込む。
リクは机の上に袋を放り投げ、喉を鳴らして笑った。
「悪くないな。初仕事で生きて帰るとは。お前、筋がいい。」
タオとミリは笑い声を上げるが、クロウはうつむいたまま拳を握りしめていた。
寒さのせいか、それとも胸の奥にある罪悪感のせいか――震えが止まらなかった。
その夜、クロウは眠れなかった。
風が隙間から吹き込み、ローデンの店主の怒号と水の鞭が頭の中で繰り返される。
「……俺は、いったい何になっちまったんだ?」
答える者はいない。
ただ、窓の外で雪が静かに降り続いていた。
雪の夜
夜が更けてもクロウは眠れなかった。
リクたちは熟睡している。
クロウは静かに立ち上がり、外套を羽織って外に出た。
街はすでに雪に覆われ、人影もまばらだ。
彼はパン屋の前で足を止め、ポケットの銀貨を数枚取り出して温かいパンを買った。
その帰り道――
視界の端に、ひとりの少女が映った。
公園のベンチに座り、膝を抱えてじっとしている。
街灯の淡い光が彼女の髪に反射し、肩に雪が積もっていく。
それでも、彼女は動かなかった。
クロウは立ち止まった。
胸の奥に、説明できない感情が芽生える。
哀れみ、興味、そして――引き寄せられるような感覚。
彼はパンを握りしめ、静かに近づいた。
街灯の光が少女の顔を照らし、その繊細な輪郭を浮かび上がらせる。
そして、それが――運命の出会いの始まりだった。
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