024
真紅 → 黄金 → そして――蒼炎。
深い海の底のような青き炎へと。
それはもはや通常の炎ではなかった。
灼熱と凍結を同時に孕み、地面を裂き、空気を凍りつかせる。
触れた瞬間、魂さえ焼き尽くすほどの力。
ユコンの体は完全に蒼炎の人影と化し、凄まじい速度で敵の大兄貴へと突撃する。
拳が振り下ろされた瞬間、蒼き炎はまるで燃え盛る津波のごとく戦場を飲み込み、大地に深い焦げ跡を残しながら轟音とともに爆ぜた。
戦況は完全に一方的になっていた。
砂を操る敵と戦っていたクロウでさえ、その光景に思わず動きを止める。
彼の瞳は大きく見開かれ、信じられないように呟いた。
「…あれが、本当に俺のデブ兄貴、ユコンなのか?」
かつては鈍重でだらしなかった姿はもう存在しない。
そこに立っていたのは、引き締まった肉体を持つ男。
赤と蒼の炎をまとい、天空にそびえるその姿はまるで炎の王。
クロウは全身を薄いマナの膜で覆っていたが、それでも肌が焼けるような熱気に汗が止まらなかった。
凄絶な戦いが続いたこの場に、もはや立っている者は二十人足らず。
その刹那――ユコンの姿が掻き消えた。
次の瞬間、彼は敵の大兄貴の眼前に現れ、拳を叩き込む。
分厚い鉄板すら貫通し、相手の口から血飛沫が吹き出す。
それだけでは終わらない。
ユコンは連打を浴びせ、拳が当たるたびに炎が肉体を焼き、無数の火傷痕が広がっていく。
敵の体は瞬く間に傷だらけとなり、衣服はボロボロに裂け落ちた。
その光景にクロウは震えながら呟く。
「これが…ユコンの力…?」
敵の大兄貴――カサキは、すでに意識を失いかけ、目は半ば閉じ、息も絶え絶え。
その姿を見た配下たちは恐怖に駆られ、一斉に逃げ出した。
だが、ユコンの放つ蒼紅のエネルギー球が次々と彼らを追い、爆ぜ、炎の柱となって飲み込む。
ユコンは一歩も止まらず、カサキの焦げ付いた髪を鷲掴みにし、顔を無理やり持ち上げた。
声は氷の刃のように冷酷だった。
「カサキ…今日で終わりだ。ここでお前を殺す。これで両方の組は清算だ。」
疲弊しきったカサキは、かすれた声で答える。
「…なら…殺せ。」
ユコンはカサキの焦げた髪を握りしめ、炎のような瞳で冷酷に告げた。
「知らないと思ったか…?
俺の手下を殴ったのは、お前の弟だろう。
お前が先に死に、その次はあいつの番だ。」
そう言い放つと、ユコンはカサキの体をぼろ切れのように投げ捨てた。
カサキの呼吸は荒く、視界は霞み、抵抗する力すら残っていない。
ユコンは顔を上げ、炎を集め始める。
蒼と紅の炎が渦を巻き、巨大なエネルギー球となって収束する。
熱気は地面を割り、空気を震わせ、まるで天が落ちてくるかのようだった。
彼はその手をカサキに向け、最後の一撃を放つ。
「死ねぇ!!」
閃光が走り、破壊の光線が放たれる――
その瞬間、一人の影が飛び出した。
カサキの最後の部下が、喉を裂くような声で咆哮し、魔法の防御障壁を展開する。
一枚、二枚、三枚――
三重の盾が重なり合い、ユコンの炎を受け止めた。
轟音が響く。
第一の盾は瞬時に砕け散る。
第二の盾もひび割れ、破片となって消える。
最後の第三の盾は数秒だけ耐えたが…やがて粉々に砕け散った。
エネルギーは止まらず、部下の両腕を貫き、血飛沫を撒き散らす。
だが、その衝撃で光線の軌道が逸れ、カサキを貫くことはなかった。
部下は悲鳴を上げ、両腕を焼かれながら膝をつく。
それでも瞳は揺らがず、必死に叫ぶ。
「兄貴…誰にも…触れさせはしない…!」




