表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/124

022

まさか…兄貴がこんなに速いなんて…!」




対する白髪の黒衣の男も負けてはいない。彼もまた燃え盛る剣を構え、一直線に突進する。




二人の姿は、まるで二本の火矢。


衝突した瞬間、空気が爆ぜ、炎が戦場を裂いた。


剣と剣がぶつかり合うたび、轟音とともに火花が弾け、周囲の兵たちは巻き込まれ炎に焼かれ悲鳴を上げる。




「ギィン! ギィン! ギィン!」


その音は雷鳴のように大地を震わせた。




黒の兄貴が咆哮し、技を放つ。


「烈焔風斬!」


剣が炎の嵐と化し、渦を巻きながら敵に襲い掛かる。




白髪の男は嘲笑しながら応じる。


「黒炎砕影!」


黒い炎が弾け飛び、破片となって辺り一面を焦がす。




視界は煙と炎で覆われた。


だが二人の動きは止まらない。


残像すら追えぬ速度で、炎の軌跡だけが空を裂き、互いにぶつかり合う。




ある時は無数の炎の斬撃が雨のように降り注ぎ、地を裂く。


ある時は互いに力を溜め、爆発の衝撃波で周囲の兵士たちを吹き飛ばす。


またある時は二人の姿が消え、残されたのは灼熱の炎だけ。次の瞬間、背後に現れた剣が紙一重で交錯する。




――これはただの抗争ではない。


二人の兄貴による、まさに炎の戦神たちの激突だった。


二人の兄貴分は、ますます速度を上げていった。


空に交差する炎の軌跡がぶつかるたび、灼熱の衝撃波が爆ぜ、周囲の者たちは慌てて身をかわさなければならなかった。


だが、それによって両方の組員たちはさらに血に酔いしれ、咆哮を上げながら突撃し合う。斬り合いの度に鮮血が飛び散り、大地を真紅に染めていく。




その中心で、二つの巨大な炎は一瞬たりとも止まることなくぶつかり合っていた。


クロウの兄貴分は炎の剣を振り下ろしながら、唸るように叫ぶ。


「お前はなぜ、俺の子分を痛めつけた奴らを差し出さねぇ? そうすりゃ、もっと平和に収まったんじゃねぇのか?」


そう言って嘲るように笑い、その瞳は炎の輝きと共に鋭く閃いた。




対する敵の兄貴分は白髪を振り払うようにして、冷たい笑みを浮かべる。


「気に入らねぇんだよ。俺は誰にも頭なんざ下げねぇ。」


だが、その胸奥には消えぬ誓いが響いていた。


「あれは俺の唯一の弟だ……母さんに誓ったんだ。必ず守り抜くって。」


そう思うたび、彼の身体を包む炎はさらに荒れ狂い、戦場全体を呑み込むほどに燃え広がっていく。




戦いの速度はさらにもう一段階、加速する。


炎の剣の軌跡は、もはやただの斬撃ではなく、空を駆ける炎竜のごとく唸りを上げていた。


一撃ごとに数十人を焼き尽くす威力を帯びており、常人には到底追い切れない。


見えるのはただ、絡み合う二筋の炎光――触れた場所は黒く焦げ、大気そのものが眩く揺らめいた。




この戦いは、もはや単なる「抗争」などではなかった。


それは二つの炎の衝突であり、かつて共に歩んだ過去、そして決して相容れぬ誓いの対立であった。


二人は殴り合うほどに、ますます熱を帯びていった。


その最中、黒い服の兄貴分の脳裏に、かつての家族の記憶が蘇る。




父は借金を返せず、ヤクザに殺され、三人残された家族は常に怯えながら逃げ回る日々を送った。


恐怖の中で育った彼は、やがて盗みや喧嘩に手を染めながら生き延びるしかなかった。




彼が十五歳の時、弟のユウトはまだ五歳の幼子だった。


ある日、ユウトを連れて遊びから帰った彼の目に飛び込んできたのは、血に染まった借家の光景だった。




「母さん! 母さん!」


叫び声は虚しく響くだけだった。




台所に足を踏み入れると、そこには息も絶え絶えの母の姿。


顔は血に染まり、一方の腕は無残に折れていた。




母は震える手で彼の頭を撫で、か細い声で囁いた。


「ユウトを…必ず守って……」




その一言を最後に、母は静かに息を引き取った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ