021
炎が黒クロの体を包み込み、氷の冷気と交わって激しく揺らめいた。大地は震え、空気は震動する。
彼の瞳は真紅に燃え、荒い息の中には強い決意が込められていた。
風を操る男は咆哮し、巨大な竜巻を放った。鋭い風刃が黒の体を切り裂こうと迫る。しかし黒は一歩も退かず、烈火の如き勢いで嵐の中へ突っ込んでいった。
「うおおおおおおっ!!!」
右手には紅蓮の炎、左手には凍てつく氷。その二つの力が融合し、破壊的な一撃となった瞬間、大地はひび割れ、轟音が戦場を揺らした。
炎は吹き荒れ、鋭利な氷の刃を巻き込みながら敵へと襲いかかる。男の風の嵐は焼き尽くされ、凍りつき、粉々に砕け散った。
「やめろぉぉぉぉぉ!!!」
絶望の叫びを上げた男は空中に吹き飛ばされ、重い肉塊のように地面へ叩きつけられた。血が口から溢れ、恐怖に歪んだ瞳で黒を見上げる。
黒は震える足で歩み寄り、燃え盛る剣を握り締めたまま、冷たい声を放った。
「この戦いは……ここで終わりだ。」
――決着の一閃。
閃光が走り、風の音が掻き消える。
男は地に崩れ落ち、命の灯火が消えた。
戦場は一瞬、静まり返る。
その視線は全て、ただ一人の戦士――黒へと注がれた。
孤独でありながら、天地を震わせる存在として。
戦場の喧騒の中、炎と氷、雷と砂が飛び交うその中心に、二つの影が静かに立っていた。
一人はスキンヘッドの大男――クロウの兄貴分。
もう一人は黒い外套を纏い、白い長髪を風に揺らす男。
彼らはすぐに斬りかかることはなかった。
ただ互いを見据え、数年前の記憶を思い返すように、沈黙の中で立ち尽くしていた。
かつて二人は義兄弟の契りを結んだ仲だった。
同じ釜の飯を食い、同じ酒を酌み交わし、背中を預け合って修羅場を潜り抜けた。
あの夜の笑い声、血まみれで守り合った誓い――すべてが昨日のことのように蘇る。
だが、あの大きな組織は崩壊した。
裏切りと野心が二人を分断し、それぞれ別の道を選ばせた。
一方は「仲間を守るための力」を求め、もう一方は「権力を支配するための力」に惹かれた。
道は交わらず、今日、二人は刃を交える宿命となった。
「まさか…俺たちがこんな形で向かい合うとはな。」
スキンヘッドの声は低く震え、戦場の轟音に溶けていく。
「俺もだ。かつては生き死にを共にすると誓った。だが今は…」
白髪の男はかすかな笑みを浮かべながらも、その目は赤く揺らいでいた。
「もう後戻りはできねぇ。」
彼は低く呟き、血の匂いに包まれた風の中で拳を握りしめる。
「お前が仲間を守りたいのなら…俺の屍を越えて行け。」
スキンヘッドは鉄棍を強く握りしめ、苦痛の色を浮かべながらも叫んだ。
「いいだろう! なら今日、血で血を洗うまでだ!!」
二人の元義兄弟、今は巨大な二つの軍を率いる首領同士。
ゆっくりと歩み寄り、距離を縮める。
そこにあるのは友情ではなく、ただ鋼と血の運命のみだった。
黒の兄貴――あの大柄な坊主頭が、突如として驚異的な速度で地面を蹴った。
その巨体からは想像もできない速さに、黒は思わず息を呑む。




