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私のブックマーク

刃がぎらりと光り、悪意に満ちた歓声が市場に響き渡る。


クロは目を固く閉じ、痛みに備えた。


だが、その瞬間——


低く冷たい声が響いた。


—「いくらだ?」


人々の動きが止まった。


がっしりとした体つきの若い男が、灰色のマントを肩にかけ、群衆の中から歩み出る。


彼の視線は、安物の商品を見るようにクロを一瞥した。


—「このガキが負ってる借り、全部俺が払う。」


店主は顔をしかめたが、ずっしりと重い金袋を見てすぐにうなずいた。


チャリンという硬貨の音が卓上に落ちる。


男は腰をかがめ、クロの襟首をつかんで、まるで鶏を持ち上げるように軽々と持ち上げた。


クロはもがく。


—「離せ!」


—「黙れ、小僧。ひどい目に遭わせてやる。」


誰も止めようとはしなかった。


群衆は、まるで自分とは無関係だと言わんばかりに、あっという間に散っていった。


男はクロを引きずり、埃っぽい通りを抜け、市場を離れ、ボロボロの家々を通り過ぎ、町外れまで来た。


そこには、古びた倉庫が静かに立っていた。


その前には、剃髪の大男が立っている。


隆々とした筋肉、左目を横切る長い傷跡、そして刃のように鋭い眼光。


—「こいつが例のガキか?」と若い男が尋ねる。


大男はクロを頭からつま先までじろりと見て、しゃがれた声で言った。


—「お前、魔法は少しでも使えるか?」


クロは首を振った。


—「…いえ…何も知りません。」


大男は口の端を歪め、半分笑い、半分軽蔑するような表情を浮かべた。


—「かまわん。ここではそんなもん必要ねぇ。」


クロは周囲を見回した。


倉庫の中には、同じくらいの年頃の子供たちが何十人も集まっている。


痩せ細り、ボロをまとった者もいれば、目だけは狡猾に輝いている者もいた。


大男は指を差した。


—「今日からお前は学ぶんだ。盗みの手口、奪い方、逃げ方。学ばなきゃ飢え死にするだけだ。」


彼が合図すると、13〜14歳ほどの子供が4、5人、興味と警戒を混ぜた目つきで近づいてきた。


—「こいつらが“面倒”を見てやる。うまくやれば飯にありつける。しくじれば…自己責任だ。」


クロは見知らぬ顔をじっと見つめた。


自分が今、どんな道に足を踏み入れたのかは分からない。


だが確かなのは——もう引き返すことはできないということだった。


彼の盗賊団での最初の日が――今、始まった。翌朝、クロは薄暗く湿った倉庫の床で目を覚ました。




鼻を刺すカビの匂い、腐った木の匂い、そしてどこかでネズミが走り回る音が響いている。




他の子供たちはすでに起きていて、石のように硬いパンと薄いお粥を分け合っていた。




赤髪の痩せた少年が、鋭い目をしたままクロにパンを放り投げる。




—「食え。食わなきゃ今日は走る力もねぇぞ。」




クロは黙ってそれを受け取り、ゆっくりと噛みしめた。




飢えが、硬くて味気ないパンを妙に美味く感じさせる。




食事が終わると、昨夜のスキンヘッドの男が入ってきた。




雷のような声で言う。




—「今日から新入りはリクのチームに入る。任務は簡単だ。西の市場で価値のある物を何でも盗め。捕まったら…自分で逃げろ。」




子供たちはクスクス笑い、何人かはクロを見てまるで見世物を待っているかのようだった。




市場へ向かう石道を踏みしめながら、クロの脳裏にぼんやりとある顔が浮かんだ。




背筋の伸びた、大柄な中年の男。




髪にはすでに白いものが混じっていた。




父の兄、ショウ。




かつて一度だけ、夕暮れの丘の上でクロを抱き上げ、美しい景色を見せてくれた人。




「大きくなったら馬の乗り方を教えてやる」と笑った人。




だが――12年前から、ショウはクロの前から消えた。




手紙もなく、一度も訪ねてこない。




生きているのか死んでいるのかも分からない。




ただ一つ確かなのは…クロにはもう、血の繋がった家族がいないということ。




「おい! 何ボーッとしてんだ!」




リクの怒鳴り声が、クロを現実へ引き戻す。




—「さっさとついて来い。狙うのはあの乾物屋だ。」




クロは深く息を吸い込み、心の底に全ての感情を押し込めた。



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