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その瞳には、まだ消えぬ炎が燃えていた。


雨はますます激しく降りしきり、闇夜はすべてを飲み込もうとしていた。


クロウはよろめきながらリクのもとへ駆け寄る。




その身体はかすかに呼吸をしているが、頭から流れる血が雨と混じり、地面を赤く染めていく。


リクは意識を失っている。それでも、か細い命の糸はまだ繋がっていた。




「リク!!! 死ぬな…!絶対に死ぬんじゃねぇ!!!」


クロウは叫び、友を抱きしめる。涙が雨と混ざり、頬を濡らした。




夜の闇の中、クロウはリクを背負い、狂ったように走り出す。


血が一滴、また一滴と、冷たい石畳に落ちていく。




ここは見知らぬ町。病院がどこにあるのかも分からない。


必死に走るクロウの視界に、かすかな灯りが映る。路地の一軒家だ。




クロウは力の限り扉を叩きつける。


驚いて出てきた男は惨状に息を呑み、震える手で道を指し示した。




「そ、そこだ!真っ直ぐ行けば病院が…!」




「ありがとうッ!!!」




クロウは最後の力を振り絞り、再び走り出す。


雨音、荒い呼吸、鼓動――すべてが悲劇の旋律のように重なって響く。




やがて、病院の明かりが目の前に見えたその時。




リクの瞼がゆっくりと開いた。


紫色に染まった唇がわずかに震え、必死に言葉を紡ぐ。




「クロウ……おまえに……言いたいことが……」




だが、クロウの耳にはもう何も届かない。


先ほどの敵の“音”の衝撃で、耳から血が流れ続け、聴覚は奪われていたのだ。


ただ、リクの唇が動いているのを見つめることしかできない。




「もう喋るな…!すぐに助けるから……!」




だが、遅すぎた。


リクの身体が痙攣し、弱々しく足を動かした後――心臓が止まった。




「やめろ……いやだぁぁぁぁぁぁ!!!」




病院の扉の目の前で。


冷たい雨の下で。


リクは息を引き取った。




クロウは地面に崩れ落ち、友を抱きしめ、獣のように咆哮する。




雨は止むことなく降り続けた。


まるで、二人の運命を悼むかのように。


雨は次第に弱まり、静かに降り続けていた。


ただ、闇に包まれた町を吹き抜ける風の音だけが響いている。




震える手で、クロウはリクの胸に触れた。


――もう、鼓動はなかった。


――もう、呼吸もなかった。




「……そんな、はずが……ない……」




その瞬間、クロウは夜空に向かって絶叫した。


しかし、その声に耳を傾ける者は誰一人いない。


冷たい雨と闇だけが、彼らを包み込み、世界は無関心に沈黙していた。




熱い涙が血と雨に混ざり、クロウの頬を伝い落ちる。


彼は崩れ落ちるようにリクの身体を抱きしめた。


――まるで、手を離せば友がこの世から完全に消えてしまうかのように。




脳裏に蘇る数々の記憶。


初めて出会った日の無邪気な笑顔。


陽だまりの中、二人で駆け回った日々。


粗末な食事を分け合い、互いに未来の夢を語り合った夜。




苦しい毎日でも、リクが隣にいるだけで耐えられた。


その全てが――今や取り返しのつかない過去となってしまった。




「リク……どうして……どうしてオレを置いていくんだ……!」




クロウは肩に顔を埋め、声にならない嗚咽を漏らす。


小さな身体を震わせながら、ただ友を抱きしめ続けた。




優しい雨はなおも降り注ぎ、まるで天が二人の運命を悼んで涙を流しているかのようだった。

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