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しかし、必死に走るのはクロだけではなかった。
ハタミットの生き残りの中で、
ひときわ目立つ三つの影が現れ始めた。
ハタミット最強と噂される――
4A1クラスのトップトリオ。
ロクヤ・ジン ― 破壊力トップの怪力戦士
ミラ・カゼ ― 超加速を誇る俊足ランナー
テツ・コンゴウ ― 鉄壁の肉体を持つタンク
強いだけではない。
恐れられている存在だった。
そんな彼らの前で、
ジュジュ学園の生徒たちが弱い参加者を襲い始めた瞬間――
トリオが動いた。
ドガァンッ!!
ロクヤ・ジンが、ブルドーザーのようにジュジュの一人へ突撃する。
「おい! ここがお前らの縄張りだと思ってるのか!?」
ミラが風のように駆け込み、もう一人を蹴り飛ばす。
「卑怯なら帰りなさい!」
テツが三人をまとめて受け止める。
「さあ来いよ。相手してやる。」
レースは一瞬で戦場と化した。
走りながら殴り合い、
木々が揺れ、
悲鳴が飛び、
土煙が舞う。
汗の匂いと土の匂いが混ざった、
まさに「走りながらの戦争」。
だがクロは――
戦わなかった。
弱いからじゃない。
クロには毎日の厳しい鍛錬で
自分の体力がどれくらい持つか
完全に理解できていた。
だからこそ彼の戦略は一つ。
戦わない。
関わらない。
力を温存して走りに集中する。
1時間目は順調。
2時間目も問題なし。
3時間目、疲れはするがまだ動ける。
だが――
4時間目。
手錠の重さが本格的に身体を圧し始めた。
呼吸は荒れ、
足は鉛のように重く、
汗が全身を濡らす。
そして表示された距離は――
残り15キロ。
クロの胃がひっくり返りそうになった。
視界がぼやけ、
心臓が苦しいほど脈打つ。
それでも走り続けた。
そして前方、トップ集団を見た時――
クロの目はさらに見開かれた。
白髪の少年。
ハタカ・レンズ。
冷静な目つき。
無駄のないフォーム。
常識外れの速度。
クロはすぐに気付いた。
(才能審査会の時の……! ジュジュのエース……なぜここに!?)
ハタカの動きは理解不能だった。
枝を避け、
段差を飛び越え、
人の隙間を縫うように進む。
その走りは――まるで亡霊。
クロは思わず息を呑む。
(これが……本物の天才……。)
だが、それでも歩みを止めない。
ジュジュの強者たちがいても、
4A1の怪物たちが暴れていても、
クロには彼らにないものがあった。
毎日の鍛錬で作られた身体。
折れない意志。
燃えるような渇望。
そして胸の奥で――
影が低く囁く。
「進め。
お前の限界は、こんな所ではない。」
クロは歯を食いしばる。
拳を握りしめる。
そしてまた走る。
走れ。
走れ。
走れ。
戦いを避けながら、
倒れた学生たちを追い越し、
深い森を進み続ける。
クロは最強でも最速でもない。
だが――
誰よりも止まらない男だった。
そして、残り15キロが――
すべてを決める。




