122
三十分後。
アリーナの揺れはようやく止んだ。
治癒師たちが走り回り、倒れた生徒を運び出していく。
生き残った者たち——わずか150名が、汗まみれの顔で一列に並んでいた。
クロウは頬についた血を拭った。
「……第一試験だけでこれかよ。」
息を整える間もなく——
ドォン!!
巨大な鉄の門が勢いよく開いた。
審判が姿を現す。
その手には、何か金属のもの。
手錠。
ただの手錠ではない。
黒く、分厚く、魔法陣でびっしりと封印された、呪いにも似た拘束具だった。
生徒たちの間に不安のざわめきが広がる。
審判が叫んだ。
「第一試験合格、おめでとう。
だが試験はこれから——
さらに残酷になる。」
補助員たちが、受験者一人ひとりへ手錠を配り始める。
「この手錠をつけられた者は、
いかなる魔法も使えない。
身体強化すら、だ。」
瞬間、パニックが爆発した。
「は!? 魔法無し!?」
「こんなの不公平だろ!!」
「俺、魔力強化が無いと走れねぇよ!!」
クロウの胸が跳ねた。
スピード試験?
魔法なしで?
しかも—— 100km?
……これはレースじゃない。
拷問だ。
審判は冷酷に続ける。
「第二試験は単純だ。
——走れ。
距離、100キロ。」
生徒たちが息を呑む。
怒号も上がる。
審判の目は鋭く光った。
「最初にゴールへ到達した 75名 が合格。
その他は……失格だ。」
そして薄く笑った。
「あるいは——倒れるだけだ。」
手錠がクロウの手首で閉じられる。
カチャン。
途端に、体内の魔力が締め付けられるように封じられた。
「……重い。」
クロウは呟いた。
まるで鉄塊を腕にぶら下げられたような感覚だ。
審判は巨大な森の道を指し示す。
「魔法禁止。
強化禁止。
飛行禁止。
近道禁止。
——使っていいのは、自分の脚と肺、それだけだ。」
フレアガンが持ち上げられる。
「用意——」
クロウは姿勢を低くした。
数千の思考が頭に渦巻く。
俺は速くない……
魔力無しでどう勝つんだ……?
ヤバい……
すると、内側から声。
「走れ。
死なせはしない。」
クロウは奥歯を噛みしめた。
「黙れ。今は邪魔すんな。」
フレアが放たれる。
シュボォォォオオオッ!!
「走れぇぇ!!!!!」
150人の受験者が一斉に飛び出した。
土が舞う。
汗が飛ぶ。
地響きのような足音が大地を揺らす。
クロウも走り出した——
が、すぐに押し流された。
生徒同士がぶつかり合う。
わざと足を引っかけてくる者もいる。
肘が脇腹に突き刺さる。
転んだ生徒は、そのまま蹴られて脇へ吹き飛ばされた。
「どけ!! 邪魔だ!!」
「俺の未来を奪うな!!」
「殺してでも通る!!」
クロウはよろけた。
マジかよ……本気すぎだろ……!
最初の道は細い。
150人が密集して押し合う。
呼吸が荒れ、空気が熱くなる。
まだ300メートルなのに——
すでに脱落者が出始めていた。
「速すぎ……!」
「無理……息が……!」
手錠が腕を引っ張る。
一歩ごとに身体が重くなる。
呼吸が痛い。
太腿が燃えるように熱い。
そして前方では、すでに数十人が飛び出していた。
やばい……このままじゃ中位グループから抜け出せない……!
クロウが加速しようとする度に——
肘が飛んでくる。
肩で押し返される。
背の高い生徒が、わざと土埃を蹴り上げて顔に浴びせてくる。
「雑魚は後ろで走っとけ。」
クロウは土を吐き捨て、目を細めた。
「……クソが。」
影の声が囁く。
「すぐに置いていかれる。」
クロウは歯を食いしばった。
「置いてかれねぇよ。」
全力で足を前へ突き出した——
ドン!!
横から体当たりされ、道から落ちかけた。
クロウは必死にバランスを取り、息を荒げた。
後方では、すでに何十人も脱落している。
これはまだ序盤。
ほんの——序章。
先の森の道は、永遠に続く拷問のように見えた。
クロウは汗を滴らせながら顔を上げる。
「……狂ってる試験だ。」
足が震える。
肺が焼ける。
それでも走る。
倒れたら終わりだ。
そして——
森の奥で待つのは、
さらなる危険だった。




