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銀色の瞳の男――グランツは、目の前の金髪の少年をじっと見つめていた。


まだ名前さえ知らない。


だが、その瞳だけは忘れられなかった。


恐れを知らない光。

無謀とも言える自信。

そしてどこか…懐かしい気配。


グランツは腕を組んだまま口を開いた。


「お前……名前は?」


少年は背筋を伸ばし、短く答えた。


「……クロ。」


「クロ、か。」


その名を繰り返すと、グランツの口元に微かな笑みが浮かんだ。


「お前、なかなか面白いな。」


クロはポカンとする。


「え……?」


グランツは一歩前へ出た。


「俺の弟子になれ。」


クロは固まった。


心臓が跳ね上がり、思考が止まる。


「……は? 弟子……?」


グランツは真剣な表情で頷いた。


「弟子は今、二人だけだ。

どちらも俺が認めた、最強の才能を持つ者たちだ。

その三人目に……お前を入れたい。」


クロの目が大きく開き、言葉が出ない。


ずっと憧れていた存在。

いつか教えを受けたいと夢見ていた魔術師。


その男が自分を選んだ。


グランツは眉を上げる。


「どうした? 嫌なのか?」


クロは首をぶんぶん横に振った。


「い、いえ! やります! いますぐやります!!」


グランツは楽しそうに笑った。


「いい返事だ。」


だが、すぐに表情を引き締める。


「だがその前に――試験がある。

俺の弟子になる者だけが受けられる、特別な試練だ。」


クロは息を飲む。


「試験……?」


「ああ。

そしてこれは難しい。

心が弱ければ、その瞬間に脱落する。」


クロは拳を握りしめた。


「やります。どんな試練でも。」


グランツの瞳がわずかに輝く。


「気に入った。

三日後、試験を行う。覚悟しておけ。」


そう告げるとグランツはくるりと背を向け、そのまま歩き去っていった。


クロはその場に立ち尽くし、震える声で呟いた。


「……すごい……本当に……俺が……」


興奮が止まらないクロ


家に帰ると、クロは勢いよくドアを閉め、ベッドに飛び込んだ。


「やったーーーー!!!

グランツが俺を選んだ!? 俺を!?」


布団を蹴り、枕に顔をうずめ、大声で笑い転げる。


自分でも信じられない。


グランツ・ヘルガード。

国中で知られる天才魔術師。

その弟子になれるなんて――


「絶対受かってみせる……!」


胸が燃えるように熱くなる。


だが、三日後には試練がある。


クロは即座に机へ向かい、上級魔法書を広げた。


魔力が部屋に満ちていく――。


影が目覚める


クロが魔法陣を書き、呪文を唱えていると、


部屋の空気が急に重くなった。


ページが勝手にめくれ、ロウソクの火が揺れる。


だが本当に異変が起きたのは――壁だった。


クロの影が……歪んだ。


クロが動いていないのに、影だけがゆっくりと動く。


そして影の中から――

四本の腕 が伸びた。


長く、鋭く、飢えているように。


影の腕は魔法陣へと伸び、魔力を吸い始めた。


クロは気づかず、集中したままだ。


しかし……影は膨れ上がり、狂ったように魔力を飲み込んでいく。


とうとうクロは異変に気付き、振り向いた。


「な……っ!?」


壁の影は、自分の影ではない。


四本の腕を生やし、巨大な怪物のように揺れていた。


クロは静かに一歩近づき、低く呟く。


「……魔力が欲しいのか?」


影が震えた。


クロは手を伸ばす。


「なら……全部、やるよ。」


その瞬間――


影の四本の腕が最大限に広がり、

部屋を包み込むほどの暗黒が爆発した。


クロの中で、何かが目覚めた。


古い。

危険。

誰も知らない力が。


そしてその夜――

クロは自分が“普通の人間ではない”ことを初めて理解した。

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