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ハルキ(1A1)との激戦のあと、クロウの名声は一気にハタミット高校中に広がった。
廊下を歩けば、どこからともなく囁き声が聞こえる。
「見ろ…あれがハルキを倒したっていう奴だ。」
「隕石魔法を素手で吸収したらしいぞ…。」
「あいつ、本当に1A2なのか?」
女の子たちも毎日のようにクロウの周りに集まった。
写真をお願いする子、連絡先を聞く子、休み時間までつけ回す子までいた。
クロウはそんな注目が好きではなかったが、無理に笑顔を作り、丁寧に対応した。
「普通にしてろ…良い印象を保つんだ。」
そう自分に言い聞かせながら。
――昔の自分には何もなかった。
だからこそ、せっかく得た新しい人生を乱したくなかった。
ハタミット最速の生徒
普通の生徒なら、クラスを一つ上がるのに六ヶ月かかる。
だがクロウは――
六週間でそれを達成した。
クラス昇格試験を満点で通過したとき、教師たちは言葉を失った。
教授リアスは皆の前で宣言した。
「クロウ…あなたは1A2のエースよ。」
そして、予想外のことが起きた。
1A1を通り越し、いきなり――
2A1へ昇格。
学校中が騒然となった。
「六週間で二つ昇級って…!?」
「あり得ない!」
「こいつ、本当に人間か?」
クロウは自慢しなかった。
祝うこともしなかった。
ただ静かにお辞儀をして言った。
「これからも努力します。」
だが――
心の中では、誇らしかった。
その頃…ハタミットの別の場所では
人影のない訓練場で、一人の長身の青年が大きくため息をついた。
グランツ・ヘルガード。
ソララ国内でもトップ30に入る天才。
しかし、その表情は退屈そうだった。
「はぁ…また記録更新か。
こんな小さな成果じゃ、もう刺激にならない。」
彼が育ったのは、怪物と天才が波のように現れては消えていく残酷な街――ハデシュ。
ハデシュでは、
グランツは八週間で四階級昇格。
他の天才でも三階級昇格。
一時的に有名になっても、すぐに忘れられた。
「この学校、いつまで俺を楽しませてくれるんだか…。」
予期せぬ出会い
ある日の午後、グランツが学園の公園を歩いていると、一人の少年が木の下で本を読んでいるのが見えた。
黄色い髪。
鋭い目。
そして本のタイトルは――
『高等打撃魔法・禁忌編 第一巻』
グランツが思わず眉を上げる。
その本は上級生向けで、2A4ですら苦戦する内容だ。
彼は思わず声をかけた。
「おい。ずいぶん熱心じゃないか。」
少年が顔を上げる。
クロウだった。
クロウは目を丸くした。
「え、えっ…あなたは…グランツ・ヘルガード…?」
グランツは軽く笑った。
「ああ、そうだ。」
クロウは立ち上がり、深く頭を下げた。
「ずっと噂を聞いていました。
あなたを本当に尊敬しています。」
グランツは口の端を上げる。
「ハッ。ありがとな。」
だがクロウは本を閉じ、真正面から彼を見つめ、はっきりと言った。
「でもいつか…あなたを超えます。」
グランツの動きが止まった。
そして、ゆっくりと笑みが広がる。
「でかい夢だな。」
世界最強――
それはかつてグランツ自身も追いかけた夢。
だが彼は知っている。
クロウがまだ知らない“現実”を。
神々。
巨人。
太古のモンスター。
彼ですら小さく感じる存在たち。
それを超える?
ほぼ不可能。
だが、この黄色髪の少年は恐れの欠片もない。
クロウは一歩前へ出る。
「なんで笑うんですか?」
グランツは腕を組んだ。
「だって…難しすぎる。
俺でも無理だった。」
クロウは即答した。
「あなたができなくても、僕ができないとは限らない。」
グランツの目が大きく開く。
何年ぶりか――
誰かにこんなふうに言い返されたのは。
その瞬間、頭の中に1人の少年の姿がよぎった。
タイビン出身の少年。
ソントゥン。
親友であり、傲慢で、自由で、そして恐れを知らなかった少年。
クロウの瞳――
あの無謀な自信が、彼を思い出させた。
グランツはゆっくり笑った。
「お前、面白いな…クロウ。」
そして手を差し出した。
「追いついてみろ。
もし俺の領域まで来れたら…
何か面白いもんを見せてくれるかもしれねぇ。」
クロウはその手をしっかり握る。
「追いつくだけじゃありません。
必ず――超えてみせます。」
――その瞬間から始まった。
ハタミットを揺るがし、やがて世界すら震わせる宿命のライバル関係が。




