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朝日がまぶしくハタミ高校の校庭を照らしていた。

生徒たちは笑いながら写真を撮ったり、おしゃべりしたりしている。

開会式が終わり、今日が本当の登校初日だった。

校内には期待と興奮の空気が満ちていた。


クロは廊下を歩きながら、目を大きく開いて辺りを見回した。

教室も、生徒たちも、本や魔力の香りまでもが新鮮に感じられた。

彼はこれまで一度も学校に通ったことがなかったのだ。

だから、すべてが彼にとって新しい世界だった。


新しい友人ハラキトが横で笑いながら言った。

「おい、クロ。まるで田舎者が初めて都会を見たみたいな顔してるぞ。」

クロは気まずそうに笑った。

「たぶん、その通りだよ。ここは…本当に全然違うんだ。」


教室 ――1年A組2に着いたとき、クロはある違和感に気づいた。

教壇の前に、先生の隣に立つ一人の少女。

短い銀髪に、鋭く透き通るような青い瞳。

冷たく、堂々とした雰囲気をまとっていた。


「みんな、新しい転入生を紹介するわ。」と先生が言う。

「彼女は1年A組1、つまりトップクラスからの転入生よ。」


教室がざわめいた。

1A1から下のクラスに転入なんて、聞いたことがない。

「名前は――ナオミ・シルヴェンです。」


クロは凍りついた。

その名前が稲妻のように胸を突き刺した。

「ナオミ……?」と小さく呟く。


少女の視線が教室をゆっくりと横切り、そして――止まった。

目が合った瞬間、クロは息をするのを忘れた。

間違いない。あのガマスのナオミだった。


だが、彼女は――違っていた。

少し大人びて、強くなり、その身体からは重たい魔力の気配が漂っている。


「ナオミさん、好きな席に座っていいわよ。」

ナオミは静かに歩き出し、クロの横を無言で通り過ぎた。

ほんの一瞬だけ、彼を見た。

しかしその瞳に、かつての温かさはなかった。

そこにあったのは――距離と冷たさだけ。


ハラキトが小声でささやく。

「おい、あの子知ってるのか?」

クロは視線を逸らしながら答えた。

「……いや、知らない。」


授業中、クロは全く集中できなかった。

何度もナオミの方を見た。

雪の街で一緒に笑い合った、あの少女の面影を探し続けた。

だが、そこにいるのはもう別人だった。冷たく、遠い存在。


チャイムが鳴り、授業が終わると、クロは急いでナオミを追いかけた。

「ナオミ! 待ってくれ!」


ナオミは足を止め、ゆっくりと振り返る。

一瞬、何か言いかけたように見えたが――

代わりに静かに言った。


「……何? あなた誰?」


クロの声が震える。

「僕のこと、覚えてないのか?」


ナオミは眉をひそめた。

「は? あなた大丈夫? 会ったことなんてないけど。」


そう言い残して、彼女は再び歩き去った。

クロはその場に立ち尽くし、ただ彼女の背中を見つめていた。

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