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私のブックマーク
ハンター協会での手続きを終えてから、クロは故郷へ帰る旅の準備を始めた。
そこは、彼がずっと前に離れた場所だった。
前回ソララへ向かったとき、彼は三週間近くもかけて移動した。
当時は正式な書類もなく、厳重に管理された海域を密航して越えるしかなかった。
その記憶はいまだに彼の脳裏に鮮明に残っている。
だが、今回は違う。
もう無名の存在ではない。
若き有名ハンターとして、クロには今、金も名もある。
そして何より――自分のやり方を選ぶ権利があった。
「今度は……もっと早く帰ろう。行きも帰りも、二週間で。」
彼は小さくつぶやき、荷物のベルトをきゅっと締めた。
クロはかなりの金額を払い、私設のパイロットを雇った。
彼はほとんどの制限空域を許可なしで飛び抜けられるという噂の人物だった。
その名はハリー・ゴーン。
がっしりした体格に、オレンジ色のひげをたくわえた男。
雷のような声と、あたたかい笑顔を持っていた。
レネリア郊外の私設滑走路に着いたとき、
ハリーは飛行機の側に立ち、熱いコーヒーを片手にしていた。
「君がクロか? 思ったより若いじゃないか!」
「はい、そうです。」
「ガマスまで行くんだって? ずいぶん遠いぞ。でも、準備ができてるなら今すぐ出発できる。」
クロはためらわずにうなずいた。
彼には、どうしても帰りたい理由があった。
ハリーは大声で笑い、力強くクロの手を握って肩を叩いた。
「よし、坊や。乗れ! 本当の“飛ぶ”ってやつを見せてやる!」
ハリーの飛行機は見た目からして異様に迫力があった。
黒い艶消しの装甲、両翼に回転式の四つのジェットエンジン、
後部には青い光を放つ巨大な推進ノズル。
まるで空を切り裂く鋼鉄の獣のようだった。
機内に入ると、クロは思わず息をのんだ。
広々としていて、革張りの座席、光る制御パネル、
壁には奇妙な装飾――獣の角、竜の鱗片、そして飛行記録の地図が貼られていた。
「しっかりつかまってろよ、坊や。」
ハリーがそう言って操縦桿を引く。
瞬間、鋭い轟音が響き、機体全体が震えた。
飛行機は銀の矢のように空へと突き抜け、
強烈な圧力がクロの胸を押しつぶす。
だがその感覚は――むしろ心地よかった。
ハリーは大笑いした。
「プライベート機は初めてか? 驚いただろ、クロ!」
クロは鼻を鳴らし、微笑んだ。
「ちょっと…びっくりしただけですよ。」
「すぐ慣れるさ。一度この感覚を知ったら、もう地面を歩くのが馬鹿らしくなる!」
三日間、風の音と雲の流れの中で時間は過ぎていった。
機内はまるで空に浮かぶ宿屋のようで、
寝台、食卓、そして小さなシャワー室まで備わっていた。
ハリーはこれまで飛び越えた空の話、
追いかけてきた奇怪な生物、
地図から消えた都市の物語を語った。
クロは黙って聞きながら、窓の外を見つめた。
雲は白い海のようにうねり、
遠くに赤く染まる太陽が沈んでいく。
その光景は――ただ静かで、美しかった。
「ガマスの雪…また見られるんだな。」
三日目の朝、飛行機は最後の雲層を突き抜けた。
遠くに、雪をまとった山々が光り輝いていた。
ハリーは高度を下げながら、にっこり笑った。
「おかえり、ハンター。」
クロは窓の外を見つめ、胸が震えるのを感じた。
あれから半年――ようやくこの地へ戻ってきた。
ガマス。
すべてが始まった場所。
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