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あと二週間ほどで、クロウは正式にハタミット学院へ入学することになる。
そこは若きハンターたちが皆、夢見る場所だった。
先日の大会以来、「クロウ」という名は若者たちの間で急速に広まり、
彼は“若き狩人”として──その異様な強さと恐ろしい戦い方で知られるようになっていた。
その朝、クロウはレネリアの街で借りている小さな宿舎を出た。
朝日が銀黒のコートに反射し、肩に淡い光の輪を描く。
彼は小さく息をつき、呟いた。
「あと二週間……本当に、また一から始まるんだな。」
今日は正式なハンター認証証──魔法界で言う“身分証明書”を作りに行く日だった。
それがあれば、各地を自由に行き来し、ハタミット学院への登録も可能になる。
ハンター局・レネリア支部
室内は人で溢れ、笑い声や筆の音、古い紙の匂いと煙草の香りが入り混じっていた。
クロウは受付カウンターへ進み、そこで忙しそうに書類を処理しているポニーテールの女性に声をかけられた。
「お名前は?」
「クロウ。クロウ・アイスデン。」
「仮登録番号は?」
「0132‐7X。」
女性は顔を上げ、しばらくクロウを見つめてから微笑んだ。
「まあ、あなた、例のバグダンジョンの魔獣を倒したっていう人ね? 思ってたより若いのね。」
クロウは軽く頷くだけで何も言わなかった。
書類の処理を待っていると──背後から懐かしい声が聞こえた。
「おいおい、ここで会うとは思わなかったぜ、クロウ!」
振り返ると、そこにいたのは昔同じハンターギルドに所属していた仲間、リンだった。
彼女は髪を短く切り、以前よりもずっと自信に満ちた瞳をしている。
隣には、少し怠け者だが回復魔法の腕が確かなタロウの姿もあった。
「リン……タロウ……元気そうだな。」
「元気どころか絶好調さ! ハタミットに入るんだって? すごいじゃない!」
「ああ、書類が終わったら、少し故郷に帰ろうと思ってる。」
「へえ、そういえばお前の故郷ってどこなんだ?」
その一言に、クロウの表情が一瞬曇った。
空気が重くなったその時、タロウが大きな声で笑いながら言った。
「おいおい、暗くなるなって! 帰るなら、お土産よろしくな! 名物の干し肉とかさ!」
クロウは思わず小さく笑った。久しぶりに、心からの笑みだった。
夕方――帰り道
全ての手続きが終わり、クロウは建物を出た。
手には新しいハンター証が握られている。
来週にはソララ王国の正式な市民証も受け取れるという。
風が髪を揺らし、遠くの雲が橙色に染まっていく。
「帰ろう……」
クロウは北の空を見上げた。
そこには、雪山に包まれた彼の故郷が静かに眠っている。
彼は知っていた。
この帰郷はただの休息ではない。
逃げ続けてきた過去と、向き合うための旅になるのだと。
そして──そこには今も、彼を待つ者がいる。
かつて、彼に魔法の力を制御する術を教えた人物が。




