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まもなく、レンツの試合の日がやって来た。
もしこの試合に勝てば、彼は決勝戦へと進出し、一気に有名人となるだろう。
その日、ハデシュ中央闘技場はまるで祭りのような熱気に包まれていた。
観客が押し寄せ、歓声とざわめきが入り混じる。
魔力で浮かぶ無数の光球が宙を舞い、旗がはためき、まるで空気そのものが震えているかのようだった。
クロウは闘技場の門をくぐりながら、思わずつぶやいた。
「……なんだこれ、人が多すぎる……」
まるで中級ランクの公式戦を見に来たかのような混雑ぶりだった。
どうやらレンツの試合は、それほどまでに注目されているらしい。
1時間も早く来たのに、座席はほとんど埋まっていた。
やっとのことで見つけた少し遠めの席に腰を下ろし、クロウは静かに待つ。
すると、近くを通った三人の少女たちが彼に気づいた。
「あっ……あなた、あのダンジョンの魔獣を倒した人じゃないですか!?」
クロウは少し驚きながらも、苦笑して答えた。
「ああ、まぁ……そうだけど。」
その瞬間、少女たちは小さく歓声を上げた。
「やっぱり本物だ!クロウ様だ!」
「信じられない!あんな若いのに、あんな強いなんて!」
「動画で見たけど、本当にかっこよかった!」
クロウはどう反応すればいいかわからず、肩をすくめた。
だが、少女たちはそのまま彼の周りを取り囲んで座ってしまう。
「ねぇねぇ、クロウさん、ご飯はもう食べた?あたしが食べさせてあげようか?」
「本物のクロウくん、写真よりずっとイケメンだね〜!」
クロウは顔を赤らめて慌てる。
(うわっ……これは無理だ……)
次の瞬間、彼の姿はふっと消えた。
瞬間移動で別の観客席に移動していたのだ。
「はぁ……やっぱり女の子って、ちょっと苦手だな……」
そうつぶやきながら、クロウは落ち着いて座り直す。
そしてまもなく、試合開始の鐘が鳴り響いた。
会場全体が震え上がり、観客たちは総立ちで歓声を上げる。
左右の巨大な扉が同時に開く。
左の扉から現れたのは――ハタカ・レンツ。
いつも通り冷静で、静かな闘志を秘めた眼差し。
彼が一歩踏み出すたびに、空気が凍り、白い靄が漂う。
反対側の扉から現れたのは――ウラキシ。
幻影系の魔法を得意とする強敵で、実体と幻を自在に操るその実力は折り紙つき。
観客の誰もが息を呑む。
――これは、間違いなく歴史に残る戦いになる。
二人が中央の魔法陣へと歩み寄り、光の柱が二人を照らす。
審判の声が高らかに響く。
「準決勝――ハタカ・レンツ 対 ウラキシ・アルヴィオン!試合、開始ッ!!」
会場が爆発するような歓声に包まれる。
クロウは腕を組み、静かに笑った。
「レンツ……どれほど強くなったか、見せてもらおうじゃないか。」
冷気と幻影が交錯し、闘技場全体が歪んでいく。
――誰もが目を離せない、運命の戦いが幕を開けた。




