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黒が家に帰る頃には、空はすでに淡い橙色に染まり始めていた。
彼が門をくぐった瞬間、何かがいつもと違うことに気づいた。
玄関の前にある古びた鉄の郵便箱──普段は請求書や広告チラシばかり入っているそこが、今日は手紙でぎっしりと詰まっていた。
何通かはあふれ出して、地面にぱらぱらと落ちているほどだった。
黒は少し驚き、眉をひそめながらしゃがみ込んで一枚ずつ拾い上げた。
厚手の紙、蜜蝋の香り、赤い封印、銀色の紋章──どれも普通の手紙ではない。
彼はそれらを抱えて家の中に入り、木の机の上に並べた。
封を切ると、そこにはハデス市内の名門高校からの手紙がずらりと並んでいた。
どの封筒にも同じ言葉が書かれている。
「才能試験でトップ25に入った受験者、アイスデン・クロウ様への入学招待状。」
黒の瞳がかすかに輝く。
トップ25入りとは、どの魔法高校にも再試験なしで入学できるということ。
ゆえに、名のある学園たちはこぞって彼に招待状を送ってきたのだ。
手書きの手紙、金色の封蝋の手紙、さらには各学院独自の魔力の香りを放つものまである。
どの学校も特別な特典を提示していた──学費三割免除、個人寮の提供、上級戦闘クラスへの優先参加、さらには著名な魔導士による特別指導など。
黒は一通ずつ手紙をめくりながら目を通していく。
ほとんどは近隣の学校からのものだったが、二通の手紙だけは特別に目を引いた。
一通は銀の翼を刻んだ封印、もう一通は赤い剣と六芒星が描かれた封印。
それは、ハデスで最も名高い二つの学校からのものだった。
ジュジュ高等学院──元素魔法と理論研究で知られる名門校。
ハタミット高等学院──実戦重視の学院であり、戦闘魔導士を育てる場所。
黒はまずジュジュの手紙を開いた。
流麗な筆致でこう書かれていた。
「ジュジュ学院は、才能試験でトップ25に入賞したアイスデン・クロウ殿を心より歓迎いたします。
学生は特別研究室の使用許可、学費免除、魔法理論プロジェクトへの参加権を得られます。」
魅力的な条件だった。黒は小さくうなずいた。
だが、視線は自然ともう一通の赤い封筒に向かう。
そこには金色の文字が浮かび上がっていた。
「ハタミット高等学院」
封を開くと、短くも力強い文章が目に飛び込んできた。
「アイスデン・クロウ殿。
あなたの実績を認め、ハタミット学院は特別奨学生としての入学を許可いたします。
優れた資質を持つ者には、ソララの侯爵にしてSランク魔導士、グランツ・ヘルガード教授が直々に指導いたします。」
黒はその名を見て、息を呑んだ。
グランツ・ヘルガード──その名を知らぬ魔導士はいない。
若くして世界ランク30位に入った伝説の人物だ。
黒は手紙を机に置き、しばし沈黙した。
ジュジュには名声と理論、ハタミットには力と実戦。
彼の唇がゆっくりと動いた。
「……強くなるためには、最強の人から学ばなければならない。」
決意の光が瞳に宿る。
黒は白紙を取り出し、力強くペンを走らせた。
「私はハタミット高等学院の招待を受け入れます。
アイスデン・クロウ。」
書き終えると封筒に入れ、切手を貼り、朝あふれていた同じ郵便箱にそっと差し込んだ。
今度は、たった一通の手紙。
しかし、それは黒の人生の新たな章の始まりを告げるものだった。
──野心と魔法、そして最強の魔導士への道が、ここから幕を開ける。




