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黒は戦えば戦うほど、傷を負えば負うほど、その身を包む蒼炎はますます激しく燃え上がっていった。
その熱気は観客席にまで届き、観客たちは思わず顔を覆い、額から汗が噴き出す。
まるで闘技場全体が炎に包まれているかのようだった。
歯を食いしばり、瞳を燃やし、怒りが全身を駆け巡る。
拳を振るうたびに速度は増し、威力は倍加する。
「グアアアアアアッ!!!」
黒は獣の咆哮を上げ、一瞬で距離を詰めた。
その拳は雷鳴のように轟き、分身の一体に直撃する。
ドゴォンッ! 大地が裂け、空気が震え、炎に貫かれたその体は灰となって消え去った。
だが、それは本体ではなかった。
直後、別の分身が冷気を吐き出し、黒の足元を凍りつかせる。
氷の鎖が彼を捕らえようとしたその瞬間、蒼き炎が爆発。
氷は粉々に砕け散り、火炎は棘を持つ炎の鎧へと姿を変えた。
触れるものすべてを焼き尽くす、灼熱の防壁だ。
さらに三体の分身が同時に襲いかかる。
炎、水、そして土と風を合わせた連携攻撃。
その連携は熟練の戦士のごとく完璧で、隙は一切なかった。
だが、黒は怯まない。
稲妻のごとき動きで体をひねり、拳を叩き込む。
蒼炎をまとった拳が連打となり、まるで天の鉄槌のように降り注ぐ。
ドガッ! ドガッ! ドガァン!
数呼吸のうちに、三体は次々と粉々に砕け散り、灰と化した。
観客席は歓声で揺れ動く。
だが、その煙の中に立つのは黒ただ一人――炎を纏った不滅の旗のように。
そして、彼が拳を叩き込んだ相手――今度は消えなかった。
黒の目が大きく見開かれる。
「……お前が、本体か!」
相手は数歩後退し、鎧が燃え裂けて筋肉質の肉体が露わになる。
それでも恐れることなく、むしろ狂気じみた笑みを浮かべた。
その体からマナが爆発し、全身を覆う元素の鎧を形成する。
「さあ、坊や……見せてやろう。本当の力を!」
瞬間、姿が掻き消える。
ドゴォンッ!
拳が黒の腹に突き刺さる。
衝撃は皮膚を越え、内臓から全身を揺さぶった。
口から鮮血が吹き出す。
(体術……それにマナを同時に!? 馬鹿な……!)
内側から抉られるような激痛に、黒は歯を食いしばり、逆に反撃の蹴りを放つ。
蒼炎を纏ったその蹴りは、巨岩すら粉砕できる威力だった。
だが――相手はびくともしない。
むしろ軽く頭を振り、薄ら笑いを浮かべる。
「その程度か、黒?」
次の瞬間、ドガァン!
黒の体は吹き飛び、闘技場の壁に叩きつけられた。
石壁が崩れ、土煙が舞う。
しかし追撃は止まらない。
別の分身が飛び込み、壁ごと黒を蹴り砕く。
かろうじて転がり避けると、今度は頭上から拳が落ち、地面を陥没させた。
さらに背後から一撃、蹴り飛ばされ、再び壁に叩きつけられる。
三体の分身が一斉に襲いかかり、嵐のごとき連打が降り注いだ。
バキィッ! バゴォッ! ドガガガッ!
拳と蹴りが容赦なく突き刺さる。
黒は必死に防御するも、全身に傷が増えていく。
燃え盛っていた蒼炎も、次第に弱まり、灯火のように揺らめき始めた。
闘志の炎――まるで消えかける蝋燭の火のように。




