表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/50

第39話  作戦会議と覚悟の選択



「ふむふむふむぅ〜……お話をまとめると、でっすねぇ〜?

この地獄の鍵は、街を囲む《封鎖》と、その中での支配の構造にあると。

でもって……そこにたどり着くための道は、ほぼ、ほっぼ〜ぅ! 断たれているときた」

理玖が腕を組みながら、低く呟いた。


すみれは、静かに頷く。


「ええ。封鎖を解くには、ガザル=ロアを奪還する必要がある。

でも、そこにたどり着くためのに地上ルートは使えない。地雷と銃弾の嵐。生き残れるものはゼロよ。


「方法はもうないの?」


「可能性はこれも低いけど、シオル・ラビリンスを通ること。少しは抜けれる可能性がある。」


「でも地図は不完全。敵がどこに潜んでいるかもわからない。……一歩先が、地獄かもしれない」



理玖がふと顔を上げた。


「さ〜てさてさてぇ〜……ここで一つ、ちょぉ〜っと気になることを聞いても、よろしいかしらぁ〜ん?

このアジトから〜、例のハヌカリスとやらへ〜、ずずいっと突撃ぃ〜! なんてコトはぁ〜……まだ可能ぅ〜?」


すみれは一瞬思案し、静かに答える。


「可能よ。危険は伴うけど、地雷もなく、砦のような拠点もない。

ただし、バラグザ連邦軍の巡回に注意が必要。見つかれば、即座に攻撃される」


「オッケ〜イでございますぅ♪(ぱんっ)」

理玖がぱんっと手を打った。


「では、我々はまず、ハヌカリスまで行かせていただきましょう。

で〜、そのあたりで《暁の矢》の皆様にも、ちゃ〜んと合流していただいて〜……

戦地の門番役、お願いしても、よろしいでしょうかぁ〜?」


すみれが、目を細める。


「……その先は?」


理玖の目がわずかに光を帯びる。


「ん〜で、我々は〜〜……シオル・ラビリンスを通って、ガザル=ロアへズズズィ〜ッと突入ぅ!

中からメツガルをバンバンッと叩き〜まして〜!

そのタイミングで〜、《暁の矢》がハヌカリスからレクイエム・ラインへ、

ドドド〜ンと進軍〜ッ! 挟み撃ちの、完成でぇ〜す☆」


その戦術を聞いたレイナが、口笛を吹いた。


「ふぅん……大胆ね。言ってることは無茶苦茶だけど、嫌いじゃないわ。それにガザル=ロアにも離れ離れになった仲間はいるはず。」


奏多が目を見開く。


「確かに……それなら、可能性がある……!」


すみれはしばし沈黙し、腕を組んだまま、ゆっくりと息を吐いた。


「……0%が、3%になったくらい、かしらね」


「でも、ゼロじゃないんだよね?」

陽葵が、小さな声で言う。


すみれは彼女を見つめ、頷いた。


「ええ。ゼロじゃない。」


「……でも、あなたたちが犬死にする可能性の方が高いわ。

この地獄で、正面から軍に挑むなんて、愚かとしか言えない」


すみれは、ふと天井を見上げ、わずかに目を伏せた。

そして、静かに――けれど、震えるほど真っ直ぐな声で語り出す。


「……確認させて」


その言葉に、部屋の空気が張りつめる。


「ここから先は、本当の地獄よ。

目を背けたくなる現実が、どこまでも広がっている。

子どもも、母親も、何もかも……容赦なく焼き尽くされる世界」



「……《暁の矢》なんて名乗ってはいるけれど、本当は……もう、諦めてた。

戦い続けるふりをして、ただ、時間を潰してただけ。

仲間は、弱い者から順に死んでいった。何人もの名前を、もう思い出せない」


小さく笑う。その声は、あまりにも静かで。


「正直……死んでしまった方が、どれほど楽だったか。

でも私は……娘の仇を討つことだけを支えに、生きてきた」


沈黙が落ちる。誰も口を挟めなかった。


「他のメンバーも同じよ。誰も、この地獄をどうにかできるなんて、本気で思っていなかった。

ただ、最後の死に場所を探して、歩いていただけ」


その目が、ゆっくりと陽葵たちへ向く。


「……そんな時だった。あなた達が来たのは。

えんじゅが私に遺した手紙。


そして――その首飾りを、あなた達がつけていた」


陽葵が、そっと胸元のネックレスに手を添える。


それは、氷冷地獄で助けた鬼の母娘が託してくれたもの。

信頼と希望のかけら。


「それは、鬼たちにとって信頼の証。

……誰かが、あなた達に救われた。

誰かが、あなた達を信じたいと願った」


朔が黙って目を閉じた。

その隣で理玖がぽつりと呟く。


「……命ってやつはぁ、時に受け継がれることもあるんですなぁ。

それが血じゃなく、想いでも――

いや、首飾り一つでも、充分に、ねぇ……?」


すみれの声が、わずかに震える。


「だから――私も、信じるわ」


そして、しっかりと顔を上げる。


「この地獄に、希望を持ち込んだあなた達を。

えんじゅが、私に託してくれたあなた達を。

……この首飾りが教えてくれた。私は、あなた達に賭ける」


最後の一言は、声ではなく――覚悟そのものだった。


そしてすっと立ち上がると、鋭く、しかし静かな声で告げた。


「《暁の矢》は、協力する。

この戦争に、終止符を打つ可能性があるのなら――乗らせてもらうわ」


すみれが告げた瞬間、

アジトの空気が、音を立てずに変わった。


その場にいた全員が、その言葉の重みを――正面から、受け止めていた。


朔が、一歩前に出る。


「任せろ」

その声に、誇張も虚勢もない。ただ一つ、揺るぎのない覚悟があった。




奏多が、すみれにまっすぐ視線を向ける。


「……僕たちは、あなたたちを支えたい。

そのために、ここまで来た。……だから、全力でやるよ」




陽葵が、胸元のネックレスをぎゅっと握りしめながら、少し震える声で続ける。


「……私も、頑張る。

この首飾りを託された意味……忘れたくないから」




そして、最後に理玖が軽く肩をすくめ、静かに笑った。


「おぉっとぉ〜、いよいよですねぇ〜……。

……ま、地獄で一番イカれた場所に突っ込むってなら、

このメンバーにしては、悪くないチョイスですなぁ」




その声には、いつものふざけた芝居がかった調子はなかった。

ただ、心からの同意がにじんでいた。


すみれは、目を閉じて頷く。


「……ええ。じゃあ、始めましょうか。

本当の地獄への、反撃を」



その瞬間、アジトに沈んでいた空気が、かすかに揺れた。

絶望に支配された焦土に、微かな希望の芽が生まれた――そのとき。


「……1ついいか?」


朔が静かに口を開く。


「ハヌカリスに《暁の矢》が向かうのはいい。

だが、それによって今度はラフエルに残るバラグザ連邦軍が、

逆に《暁の矢》を背後から挟む可能性が出てくる」


すみれの瞳が鋭く細められる。


「……つまり、挟み撃ちになるのは、こちらの方だと?」


「その通りだ」

朔はまっすぐ、すみれを見据える。


「だから――先にこのラフエルにいる連合軍を叩いておく必要がある。

そしてその後は……スピード勝負だ」


朔の声に、場の空気が引き締まる。


「動き出したら、一気にハヌカリスへ進軍し、

そこからは予定通りガザル=ロアに突入する。」


そのとき、静かに、壁際にいたレイナが一歩、前に出た。


「すみれ様」


その声は、静かで、よく通る。


「そのパーティーに、私も同行します」


一同が目を見開く中、レイナは視線を逸らさず、淡々と続けた。


「この地の地理もある程度把握している。

シオル・ラビリンスの構造、メツガルの動き、私には戦える理由が揃っている」


沈黙が落ちる。

すみれは、じっとレイナの瞳を見つめる。


そして、口の端にごくわずかな笑みを浮かべた。


「……あなたが、そこまで言うとは、ね」


レイナは、ぴたりと頷いた。


「責任は、私が取ります。

この作戦、乗る価値は――十分にあると判断しました」


すみれは深く息を吐き、再び全員の顔を見渡した。


静かな言葉だったが、その場にいた全員が――

その瞬間、作戦が本当に動き出したことを理解していた。


焦土と戦火の果てに。

次なる地獄への扉が、ゆっくりと開かれようとしている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ