表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/50

第13話 灼熱地獄 決戦 前編



陽葵の放った《氷のバリア》は、灼熱地獄そのものを凍らせるほどの力だった。




地を焼いていた溶岩の流れがピキピキと音を立てて凍りつき、吹き荒れていた熱風すら、白い霧のような冷気に包まれて静まっていく。




「すごい……本当に……」




奏多が、陽葵を支える手を震わせながら呟いた。




炎に焼かれ、焦げついた自分の腕。その腕が今、陽葵の作り出した冷気によって――救われていた。




朔も、少しだけ顔を伏せ、そして静かに口を開いた。




「……君は……強い女の子だったんだな」




その声に、陽葵が恥ずかしそうに俯いた。だが、その目は、もう涙に濡れてはいなかった。




「……わたし……怖かった。でも、奏多お兄ちゃんが……守ってくれて……それに……」




陽葵は、そっと奏多の袖を握りながら、小さく続けた。




「……朔お兄ちゃんの背中も、ずっと見てたから……」




朔は何も言わずに目を伏せたまま、ほんの少しだけ肩を揺らす。きっと、彼なりの照れ隠しだ。




「僕は、ただ信じただけだよ」




奏多の言葉は、きっとそれ以上でも以下でもなかった。




でも、それだけで――陽葵の心は、また強くなれた。







しばらく進むと、空気の温度が明らかに変わった。




凍りついていた地面に、再び熱が戻ってきたかのように、ぬるく、重く、熱気が立ちこめてくる。




そして――




「……皆、気を引き締めろ」




朔が立ち止まり、低く、静かに言った。




その目線の先。




赤黒く焼け焦げた大地の上に、異様な気配を放つ影が立っていた。




巨大な体躯。燃え盛るような鬣。地を割るような呼吸。




灼熱地獄の“門”――そこに立ち塞がっていたのは、この地獄の“門番”。




その名も、《灼熱鬼》。




「こんなところに……人間か……。面白い……いや、“焼き甲斐”があるってもんだ……!」




声が、地響きのように響いた。




炎のように歪んだ目が、じろりと三人を睨む。




朔が剣に手を添え、奏多は陽葵の手を取りながら構える。




「行くぞ……」




「ここは“灼熱の門”。通すわけにはいかん!」




「業火に焼かれ、魂ごと灰になれいッ!!」




次の瞬間、鬼の咆哮と共に、天地を割るような火柱が上がる。




朔が真っ先に踏み出した。




「奏多、陽葵から離れるな。あいつの炎は、触れただけで焼き尽くす」




魂の剣を握り、朔は炎の中へ飛び込んだ。




だが――




剣が、徐々に揺らぎ始める。




(クソ……陽葵の傍を離れたせいで、魂が乱れて……!)




炎に包まれた地獄では、魂の安定が命取りとなる。




「朔お兄ちゃん、戻って!」




陽葵が叫ぶ。彼女の瞳に、決意が宿った。




陽葵は、朔の背中を見て、叫んだ。




「朔お兄ちゃん、私、戦う!!」




「……っ?」




朔が振り向いた瞬間、少女の足元に、冷気が走る。




「魂は、想いだって……お兄ちゃん、言ってたよね?」




「だったら、私は――この力で!」




炎の中を駆ける陽葵。




魂のバリアが変質していく。




“氷”の力が、少女の身体を纏い、まるで雪の羽衣のように冷気が舞い上がる。




小さな手のひらから放たれた氷の刃が、鬼の腕をかすめ――




ゴオオオオオ!!!




灼熱鬼の雄叫びが響く。




「陽葵っ!!」




奏多が叫ぶが、陽葵は止まらない。




「大丈夫……私、ひとりじゃない!」




少女の足元には、確かに“凍った道”が伸びていた。




魂が、恐怖を乗り越えて前へと進む――その意志が、大地をも凍らせる。




「いくよっ……!」




陽葵が放った氷のバリアが灼熱鬼の前で炸裂する。




しかし――




ゴッ!




「きゃあっ!」




鬼の腕が陽葵を弾き飛ばした。




バリアが砕け、冷気が霧散する。




「おまえの炎なんか、怖くない……!」




陽葵の掌から、冷気が解き放たれる。




それは彼女の“魂”が呼応した力だった。




だが。




灼熱鬼は、怯まない。




「我を侮るなァアアアアアアア!!」




鬼は、天へと手を翳す。




「地獄の業火よ……我が血肉を燃やし、天を灼け!」




「“天獄魔炎陣”――喰らえ!人間どもッ!!」




その瞬間、上空からいくつもの“隕石”が落ち始めた。




真っ赤に燃える炎の塊。




触れれば魂ごと焼き尽くされる――まさに、地獄のメテオ。




「だめっ……止めないと……!」




陽葵は震えながらも、両手を広げた。




「凍れっ……! 全部、凍れえええええっ!!」




魂の叫びが、氷を強化する。




巨大な氷の結界が、空へ向かって展開され――




バァンッ!!




凄まじい衝撃と爆音。




氷は砕け、陽葵は膝をついた。




大気が震える。




小さな身体に、全身の魂を込める。




氷のバリアが、空へ向かって立ち上がった。




メテオの炎と激突し――




ギギギギ……ッ!




氷の壁が、音を立ててきしむ。




「くっ……っ、だめ……まだっ、足りないっ!」




その時だった。




誰かが、陽葵の手を強く握った。




「――一人で、耐えなくていい」




奏多だった。




「奏多お兄ちゃん……!」




「僕も、一緒に守るよ」




奏多の魂が、バリアに流れ込む。




“守る”という意志が、氷の盾をさらに強化していく。




――メテオが、バリアに激突した。




バァァアアアアンッ!!




轟音と衝撃が世界を包む。




だが――崩れなかった。




「……止めた……!」




陽葵と奏多、ふたりの魂が作った“絆の壁”が、地獄の隕石を食い止めたのだ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ