第3話 浮気?
「・・・ソフィーア様、トビアス男爵領の土砂崩れの件ですが…。」
ノックして入ってきたのは、宰相。私、フランツの父だ。
「・・・フランツ?ソフィーア様は?」
「出勤拒否中です。ご自分で進めてください。」
「まだ続いているのか?公務に差し支えるぞ?」
「・・・こちらはすでに、猫の手も借りたいほどですので。」
もう、差し支え始めている。山積みの書類に埋もれた殿下の頭だけが見える。殿下は仕事はできるんだけどね…。こと、ソフィーア様についてはポンコツ。と、いうか…。何をしても許されると思っている?
執務室が静かになってから、早、一週間。
そう、あれは1週間前。
公爵家主催のダンスパーティーに出向いた殿下は、事もあろうに、公爵令嬢のイザベラ様とファーストダンスを踊り、バルコニーでイチャコラしてしまった。本人は社交辞令だと言っているが、他人から見たら恋人同士。そのまんま。
同じく招待されていた侯爵家のソフィーア様もその侍女も、私も現場を見た。それですめばよかったが、公爵家の息のかかった招待客に知れ渡ってしまった。あれは…失敗じゃない?
「いつもあんなものだろう?俺はモテるんだ!」
と、訳の分からない言い訳をなさった殿下は、確かにいつもあんなものだった。
但し、公爵家はいけなかった。ソフィーア様より高位で、しかも、王子妃の座を狙っていたのは公然の秘密だったから。相手、選べよな?
さっさと王城に帰ったソフィーア様は、その日のうちに国王陛下に許可を得て、殿下の隣にあてがわれた部屋を退き、離れに移ってしまった。
以来、体調がすぐれない、と離れに引きこもり、ご公務もお休みされている。
一週間だよ?
周りから見ると、二人はケンカするほど仲良しだった。
私は幼い頃から殿下の側使いに上がったので、ソフィーア様とその侍女のモニカと、4人で大きくなったようなもの。
あの二人は…成績も、剣術も、もちろん公務も…。ダンスを踊らせれば、二人で一人、って感じ。そう、並び立つほどの…ライバル関係?
例えば懸案事項について、喧喧囂囂言い合うが、収まるところにちゃんと収まる。この国がどこに進んでいくか、向いている方向が一緒。
日がな一日、喧嘩してるような二人。
それなのに、息がぴったり。