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斬奸夜


 文久三年九月――


 (つぶて)のように激しい雨が、屋根をたたく。

 砂利を延々とぶちまけたような音が夜陰を押し包む。

 泥炭で塗り固めたような闇が、重く身体に圧しかかる。

 

 ――何も見えない。


 何処に誰がいるのか、判別がつかぬ。

 激しい雨音に耳も塞がれ、気配すらつかめぬ。

 前方に土方。それに沖田がいる筈であるが、それすら疑わしく思えてくる。


「――ぜ」


 右前方――恐らく土方が焦れたのであろう――闇が動いた。


「甘い!」


 聞こえぬはずの胴間声(どうまごえ)が響き渡ると、闇の中に一瞬、火花が飛び散る。


 そこに浮かび上がるは、唇を吊り上げた巨漢の顔。その手には畳まれた鉄扇が握られている。巨漢は剣ではなく、鉄扇で土方の剣を弾いたのだ。


 剣を弾かれた土方が、たたらを踏む。

 そこへ、間髪いれず沖田が奔った。


 迅い――


 だが飛燕の如き剣を鉄扇で弾くと、勢い、沖田が身体ごと吹き飛ばされる。


「賢しいのう。近藤の差し金か――」


 否。貴様か――土方と、闇が嗤った。

 礫の如き雨粒が屋根を叩き、互いの声すら通らない闇。だが不思議とこの男の声だけは、よく響く。


 そうじゃねぇよ――土方はそう答えたのだろう。


「御上意だ」


 そう言って、土方は剣を構えた。


「しゃらくさい!貴様ら如きの生白い剣で、討てるものなら――」


 討ってみよ――と、巨漢の男に向け、闇が凝りはじめた。

 重苦しい闇そのものが、男の身体に吸い込まれてゆく。

 無意識に、土方と沖田の足が退る。


 男のまとう異様な気配に、さしもの二人も気圧されしているのだ。

 かはぁ――と、呼気と共に、濁った闇が吐き出される。

 だが、その異様な光景は、土方の眼にも沖田の眼にも映ってはいない。


 巨漢の瞳が、炯と妖しく輝きを放つ。


「いかん!」


 そんな中、土方と沖田を押しのけ前に出る。

 抜き放った剣を右手に携え、左の指で剣印を作ると、刀身を奔らせた。

 その瞬間――男のまとう闇に亀裂が生じた。


「いまです!」


 その叫びに、鉄扇を振りかぶった腕を、土方が断つ。

 そして、沖田の神速の突きが三度――

 礫の如き雨音は、いよいよ激しさを増す一方であった。

 



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