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聖母狩


 ――神さまはいるの?

 

 幼いころからいつも思っていた。


 姿を見たこともない。

 声を聞いたこともない。

 一度も、何もない。


 ――祈りなさい。

 ――信じなさい。


 おとうも、おかあも、爺も村長(むらおさ)や大人たちは口をそろえて言う。

 ただいつも、岩窟の奥にある白い観音像に手を合わせ祈るばかり。

 絶やすことなく灯し続けられる蝋燭の炎に、仄かに照らされた()()()観音は、いつも悲しそうに微笑んで見えた。


 四つ上の姉やは今夜、そんな“まりあ”さまになるのだと言う。

 ずっと昔から続く古い掟――数百年も続く習わしだと言われても、あまりにも途方もなく想像がつかない。


 ただ今夜、姉やが自分だけの姉でなくなるのが、無性に悲しかった。

 山に入って一緒に花を摘み山菜を採り、崖から落ちた時は泣きながら自分を探してくれた優しい姉や。

 美しく優しく、そして強い姉や。


 いつかは村の男衆――そうだ、太郎左とでも太郎左(たろうざ)になると思っていたのに。

 でも、姉やは今夜、カミサマのもとに行く。


 ――姉やはカミサマに嫁ぐの?


 と、訊くと村長は、

 

――神さまの母になるのだよ。


 と、言った。


 ――姉やはカミサマのおかあになるの?


 と、訊くと村長は、


 ――神さまの嫁になるのさ。


 と、笑った。


 ――そう、お前の姉は“まりあ”さまになるのだよ。


 そう言って村長は哂った。


 ――誉れじゃ。

 ――めでたい。

 ――祝いじゃ。

 ――はれるや。


 どこか辛そうに、ぎこちなく微笑むおとうやおかあと違い、心底から満面の笑みを浮かべ、祝福している村の衆を見て、姉やはどこか遠くへ行ってしまうのだと分かった。


 嬉々とした様子で、儀式の準備を進める村の衆たち。

 そんな中で唯一、太郎左だけが、自分と同じ顔をしていた。

 姿を見たこともなく、声も聞いたことがない。

 そんなカミサマの下に行くなんて――そんな儀式壊れてしまえばいい。


 たまらずその場から逃げだした。

 けど、祈る先はこの観音さましかなかった。

 どうかしている。

 でも、他に祈るところなんて知らない。


 ――姉やを取らないでください。

 ――儀式なんて、壊れてしまえばいい。


 生まれてから一番真剣に祈ったのが、まりあさまを否定するようなこと。


 だからきっと――


 そう、だからきっと、まりあ観音は怒ったのだ。


 その日、わたしの願いは通じて、姉やは〝まりあ〟さまにならなかった。

 その代り、黒い大きな鬼と、白い美しい鬼が来て、村は無くなった。


 おとうもおかあもたろうざもしんで、むらおさもむらしゅうもしんで――

 ねえやは?

 あれ?ねえやは?


 ナラバオマエガまりあにナルノダ――


 耳元で呪詛のような言葉が響き――


 ……そしてあたしは――地獄に落ちた。


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