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ノウテンの街

ノウテンの街


 裁判所で法人と個人の自己破産が同時に決定された日から数週間、私は<江南慕情>のビデオを見続けた。2時間ドラマを1日5回位繰り返して見た。妻は現実的で取引先と話を付け、翌日からその事務所に勤務した。私は総量規制が発令される直前、この事務所を助けていた。分譲マンションの設計を依頼していたが、資金繰りが苦しいというので600万円前払いした。結局そのマンションはバブルが弾け、銀行融資が止まり、建築される事は無かった。私はこの時の貸しがあるので、妻の職場と収入は安心して良いと思っていた。この思いについて誰にも話していない。後日、酒屋売却時の大きなくい違いになって行った。

 

 子供達は仕事もしないでビデオを見てばかりいる父親を見て、頭が変になったのではと思ったに違いない。私は上映会を終えてから破産するまでの1年間も殆ど毎日2回以上見ていた。私は黒澤明監督に肩を並べたと思った。素人で色々ハンディキャップのある中でこれだけの事が出来るなら、次回の作品は負けない映画になるに違いないと思っていた。

破産によって今までの経済活動は全て清算され、無一文からの再出発となった。

しかし仮に、2億円掛けた映画を研究費と見れば、そのノウハウは私の頭の中に在り、誰も持って行った者はいない。

<なあ~んや、私は財産を失っていない>と確信した。


 酒屋の事業が金を生むようになったと思った時、妻に店を売られてしまい、夢半ばにして手をひく事になった。

次にした事は取引先の不動産屋の手伝いをする事だった。取引先の社長は私と同年代だった。バブル崩壊で苦しんでいたが未だ破産するような状態までにはなってなかった。私は自分の経験を活かし、何とか彼を助けようと思った。

1年余りで元気な不動産屋になった。同業者が殆ど沈んでいる時に、建売を再開し、大阪府下の元気な建売屋の10指に入ったと思った。同時に私は1年間で1000万円の貯金ができたと思っていた。私は復活するのは簡単だと思っていた。ところがその1000万円も使い込んだまま彼が夜逃げしてしまった。

<5000万円以上の利益を上げている者がどうして?>

 推測してみると、バブル時に1億円余りの借入をしていたが、銀行の「儲けは全て返済に廻して下さい。要る時は又融資する」の言葉を信じて返済に廻していたのだ。ところが、資金繰りに困った時に借りに行ったら、銀行に貸す金は無かったのだ。その為に不渡りが発生し、それがきっかけで組員に追われる事になってしまったのだ。再びどんでん返しの幕切れになった。1994年の12月、私の破産から3年後の出来事だった。


 翌年、私はある取引先の休眠状態の子会社を動かす仕事を与えられた。この頃、大阪の中心地の不動産価格はバブル時の10分の1まで下がっており、マンション業者が土地を買い始めた。これからはマンションの時代と考えて、マンション業者が復活していく様子を背景に主人公が活躍する映画シナリオを書いた。街中で次から次へと問題が起こり、脳天がギリギリと傷む様を描くので、<脳天の街>と題名を付けた。当時、小説家を志していた息子が<ノウテンの街>の方が好奇心が広がると教えてくれた。


 元気になったマンション会社がスポンサーになり、その会社の広告・宣伝も兼ねた映画を作ろうと思った。シナリオを製本し、関係者に配りまくった。その後、大阪中心地にどんどんマンションが建てられる様になったが、一般の人が想像するのと違って、その時マンション業者も大変だったのだ。と言うのもマンション業界にどんどん新規参入者が現れ、マンション建設用地を取り合ってしまったのである。その結果、共倒れが続出し、マンションブームも去ってしまった。

 マンション業界にスポンサーを求めるのは無理と判り、次に製作委員会形式で映画を作る事を目指した。友人の不動産会社の社長を事務局長にして、当時日本に登場したインターネットを利用して出資会員を募集する事を考えた。ところがホームページ開設を請け負った通信会社が、着手金を取ったまま倒産してしまった。この後、私も不動産業界も現在まで沈んだままであり、計画も頓挫したままである。


 私はいつチャンスが訪れても良い様に準備をした。<ノウテンの街>のシナリオは2部、3部まで製本して配った。第4部は頭の中には描いたが、1~3部の実現の見込みが立たないので書いてない。1998年10月より再び宅建業者として自営しているが、現在までチャンスは来ていない。

<なあ~んや、頭の中に2億円分の財産が有ると思ったのは錯覚だったのか?いや違う。チャンスを待つのだ>


*その後、<ノウテンの街>は小説化して文芸社で発刊されています。1巻と2巻に第4部迄収録されています。最近、第3巻を出版しました。第1巻より前の話を収録しています。



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