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行方不明

行方不明


 私は自己破産に付いてその10日前には考えた事も無かった。そもそも倒産と破産の区別も付いていなかった。A社長に貸した1500万円の手形が3ヶ月の期限が来た時、私は手形を取り返しに行った。A社長は金を借りて無事手形を落とすと言うので、私は彼に付いて行った。貸してくれる土建屋の社長はA社長に金を貸す条件に我が社の手形を要求した。私がその要求を受け入れた時点で、仮発行の手形用紙は正式に我が社発行の手形に変身した。手形は落ちたが、今度は金額も2000万円に膨れた。直後にA社長は行方不明になった。3ヶ月の期限をジャンプする時に2500万円に膨れた手形を渡したが、古い方を返してくれない。3回目が来た時、「元々A社長の会社の問題なので、私は不渡りにします」と意思を伝えた。その直後から私と妻は軟禁状態になった。社員は皆辞めていて2人だけ事務所にいた。

「あなたが不渡りにすると私達が首を吊らないといけない」と泣き落としに来る者が2組あった。いずれも社長夫婦の様であった。

「問題を解決してやる」といかがわしい正義の味方風の2人組が現れた。組事務所にも連れて行かれた。私は意思を変えなかった。翌日、私達夫婦は自分の会社事務所で軟禁状態になった。私達は警察を呼んだ。2日間で20人位が入れ代わりながら私達に詰め寄った。警察が来ても民事だからと言ってひるむ様子は無い。

「場所を変えて話そう」と彼等は言った。すると刑事が「警察が場所を提供するのでそこでやりなさい」と言った。結局私達は警察署の中で軟禁状態になった。彼等は交代で詰め寄って来る。深夜の0時になると警察官も交代する。私達は交代させてくれない。詰め寄る相手は30分交代のペアである。朝の4時頃、「車だけくれたら帰る」と言うので150万円相当の車をくれてやった。

一瞬「物品を強要されている」と警察に相談しようと思ったが、横で妻が気分悪そうにしている。これ以上長引かせるのは不可能だった。

「なあ~んや、私達は警察署に軟禁されて、警察署内で金品を強奪されたんや」

翌日弁護士に相談すると「自己破産が1番簡単です」との事だった。

確かに個人、法人含めて30億円の負債は、商品の不動産価格が半値以下に暴落して、未だ下る状態であったので、とても返済が出来る状態ではなかった。私は初めて自己破産という言葉が自分の為に在る事を知った。

私は「迷惑を掛ける銀行や、取引先に挨拶に行きます」と弁護士に言った。弁護士は「通常裁判所で自己破産の判決が出る迄、行方不明になるのです」と言った。

弁護士事務所の中で打ち合わせ中、受付で「話は付いたから自己破産の必要は無くなったよ」と大声を発する者がいる。事務員が「お帰り下さい」等ときっぱりと応対している。恐怖の使者は私達を見張っていたのだ。

 私達夫婦は取引先の計らいで空き家を世話してもらって行方不明になった。後を付ける者がいないか窺いながら、映画のシーンの様な逃避行であった。2人の子供にも「友達の家に泊めてもらって行方不明になる様に」と電話した。

1週間後自己破産が決定した。妻は怖さより行方不明の方が嫌になり、さっさと自宅に帰ってしまった。子供達は毎日、犬の世話と洗濯をしに、こっそり家に戻っていたので、直ぐに合流出来た。すると10数人が家に押しかけたそうだ。

「自己破産したから裁判所に行って」と言ったら、「時間の無駄だ」と捨てセリフを言って直ぐに帰ったそうだ。そして、私も妻に電話した後、直ぐに行方不明者である事を辞めた。


 この間、子供達はそれぞれ毎夜別の友達の家に泊めてもらったそうである。長女は高校3年生の夏に初めて進学を決意し、立命館を受験すると決めていた。それまで親の生活が不安定であったのが進学志望を消していたのだった。そして突然猛勉強を始めたのだが、友達の家でも猛勉強を止めなかった。

「こんな状態の中でも勉強するんだ」と友達も付き合って勉強して、目の色が変わった。

偶然?A社長の過って受けた4500万円の不渡りと同じ金額になったが、因果応報であろう。しかし時が経つにつれ、私の独立直後に仲介した土地の取引から、蟻地獄の罠の中に入っていたと思うようになった。


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