撮影許可
撮影許可
南京副市長は言った。
「私達はこのように許可を取る為に努力しています」
そして書類の束を差し出した。ハガキ大のわら半紙風の紙の束だった。少し厚めの紙であったが重ねた厚みが5センチはあった。その1枚1枚に各省庁等の許可判が押してあった。
「あと、北京政府の文化庁の判が必要ですが、未だ許可願いを出していません」
おそらく、天安門事件1周年問題で神経質になっているので、「今出すのは拙い」の言葉が隠れていたのではないだろうか。団長は必死に次の事を説明した。
1、この映画は日中友好の為に作る。
2、興行映画ではないので大袈裟に考えないで欲しい。
3、南京政府の管轄以外では撮影しない。
4、天安門事件を追求する報道関係者とは違う。
5,1つの企業が会社の宣伝を兼ねて行うもので、北京政府の了解が要るような大袈裟な話ではない、等であった。
副市長は「興行映画にはなりませんね」と確認をして、「撮影を許可します」と言った。
私達は翌朝からスケジュール通り撮影を進める事が出来てほっとしたのだが、私には引っかかる事があった。
プライベートフィルムである事は事実であったが、いつ興行映画に変わるかも知れない。内心私はその先も思い描いていたのだ。しかし、言葉通りに受け止めるとその道が閉ざされてしまったのだ。
シナリオにある上海のホテルが別のホテルに変更された。知らずに北京政府直轄のホテルを指定していたからだ。
少しの変更は有ったが、全体に協力的でシナリオに有る以上の良いシーンが撮れた。但し、これが編集の時に困った。中国の人々が力を入れているのでカットしづらいのだ。「江南慕情」は120分の作品だ。編集の時にF氏と論争になった。F氏は105分で仕上げるのが一般的であり、テレビの放映になればコマーシャル時間等を入れないといけないから120分は長すぎると主張した。理解は出来たが、どんなに縮めても120分以下にならない。大事なシーンや大切な人達のシーンばかりなのだ。F氏が監督なら大胆にカットして105分で仕上げたと思う。しかし監督は私だ。大作は長くて当たり前、いわばノーカット版だと強弁した。
実は幻の「江南慕情」が存在した。F氏編集の娯楽重視のシャープなバージョンだった。しかし、興行目的の作品にする気が無かったので1日で消えた。
「なあ~んや、そんなのもあったんや」




